147.01

【分野】スピンエレクトロニクス

【タイトル】放射光軟X線でスピンの超高速ダイナミクスを観測

【出典】
K. Takubo, K. Yamamoto, Y. Hirata, Y. Yokoyama, Y. Kubota, Sh. Yamamoto, S. Yamamoto, I. Matsuda, S. Shin, T. Seki, K. Takanashi, and H. Wadati, “Capturing ultrafast magnetic dynamics by time-resolved soft x-ray magnetic circular dichroism”, Applied Physics Letters 110, (2017) 162401.

【概要】
放射光施設SPring-8の東大物性研ビームラインであるBL07LSUにおいて、強磁性を示す合金である鉄白金薄膜を用いて、時間分解磁気円二色性測定に成功した。レーザー光照射により消磁が起きていることを放射光の時間分解能である約50ピコ秒で観測した。今後、2種類以上の磁性元素を持つ合金において元素別のスピンダイナミクスを明らかにすることが期待できる。

【本文】
近年、物質科学においては、電子の性質を活かした新機能を持つ物質開発の研究が盛んに行われており、特に、応用に向けては電子のスピンの自由度を活かしたスピントロニクスが注目を集めている。さらなる高速化に向けて、磁場ではなくレーザーなどの光によってスピンを制御することが、今後のデバイス応用に向けて盛んに研究されている。そこで本研究では、東京大学物性研究所ビームラインであるSPring-8 BL07LSUにおいて、放射光軟X線を用いた時間分解磁気円二色性(XMCD)の測定装置を建設し、測定を行った。時間分解XMCDにより、磁化の変化の様子が観測できる。レーザーを照射することによる消磁の時間スケールは約50ピコ秒に見えたが、これは放射光の時間幅であり実際にはもっと短いと考えられる。消磁を起こすためのレーザー強度に閾値的な振る舞いも見られており、これは光で誘起した相転移に特徴的なものである。本研究による時間分解XMCD測定は、日本の放射光施設で唯一のセットアップであり、今後の系統的な磁性体のスピンダイナミクス研究に活用することができる。放射光を用いるメリットとして、元素別のスピンダイナミクス観測など、実験室光源では得られない研究展開が期待できる。さらには、レーザーを用いて消磁のみでなく磁化の反転を起こす現象のメカニズム解明も本手法で可能であると考えられる。

時間分解軟X線測定装置の模式図(左)と鉄白金薄膜の時間分解軟X線磁気円二色性の測定結果(右)
時間分解軟X線測定装置の模式図(左)と鉄白金薄膜の時間分解軟X線磁気円二色性の測定結果(右)

(東京大学 物性研究所 和達大樹)

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