111.03

分野:
スピンエレクトロニクス
タイトル:
Ta/CoFeB/MagOおよびTa/CoFeB/Ta多層膜のGilbertダンピング定数測定
出典:
“Gilbert damping constants of Ta/CoFeB/MgO(Ta) thin films measured by optical detection of precessional magnetization dynamics”, Phys. Rev. B 89, 174416 (2014).
 
 
概要:
Ta/CoFeB/MgOおよびTa/CoFeB/Ta強磁性多層膜のGilbertダンピング定数を光学的ポンプ・プローブ法を用いて測定した。Gilbertダンピング定数はCoFeB層の厚みに反比例すること、Gilbertダンピング定数とCoFeB層の垂直磁気異方性には相関がないことが示された。
 
 
本文:
東北大学の飯浜らはTa/CoFeB/MgOおよびTa/CoFeB/Ta強磁性多層膜におけるGilbertダンピング定数αとCoFeB層厚みの関係を実験的に調べた。近年、活発に研究開発が行われているスピントルク型不揮発性磁気メモリ(STT-MRAM)の低消費電力化には小さなαを持つ材料の開発が必須である。2009年に家形らが発見したCoFeB/MgO界面に誘起される大きな垂直磁気異方性は高い磁気抵抗比と熱耐性を有する垂直磁化型STT-MRAMの実現に向けた研究を大きく前進させたが(Yakata et al., J. Appl. Phys. 105, 07D131 (2009))、一方でαの大きさに関してはあまり調べられていなかった(ただしFeB/MgO系については例えば Konoto et al., Appl. Phys. Express 6, 073002 (2013); Tsunegi et al., ibid 7, 033004 (2014))。
今回、飯浜らは素子にレーザーを照射して強磁性体をいったん減磁し、それに伴って初期状態からずれた磁化が再び元の位置に戻るまでの緩和時間からGilbertダンピング定数αを見積もった。そしてαがCoFeB層の厚みの逆数に比例すること、MgOをTaで置き換えるとαが大きくなることを示した。この傾向はスピンポンピング効果(S. Mizukami et al., Phys. Rev. B 66, 104413 (2002)) によってよく説明できると考えられる。また本論文ではGilbertダンピング定数がアニール温度にほとんど依存しないのに対し、垂直磁気異方性はアニール温度に大きく依存することが示されている。具体的にはアニールしていない試料とアニール温度が250℃程度の試料では後者の垂直磁気異方性が1.5倍近く大きく、更にアニール温度を上げると異方性は再び小さくなる(この結果だけでも本研究は示唆に富んだものと言える)。これらの実験結果はGilbertダンピング定数と垂直磁気異方性を独立に調整することができる可能性を示している。本研究は低い消費電力と高い熱耐性を有したSTT-MRAMの研究開発に対する重要な提案となるであろう。

(産総研 谷口知大)

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