117.02

【分野】
スピンエレクトロニクス
【タイトル】
共振器とのダイポール結合によるスピントルク発振器の線幅の最小化
【出典】
“Frequency stabilization of spin-torque-driven oscillators by coupling with a magnetic nonlinear resonator”, J. Appl. Phys. 116, 163911 (2014).
【概要】
ダイポール結合したスピントルク発振器と共振器の磁化ダイナミクスを理論的およびシミュレーションにより解析した。そして発振器を流れる電流が特定の値を取った時に周波数スペクトルの線幅が著しく狭くなることが示された。
【本文】
東芝の工藤らはダイポール結合によってナノ磁石に結合したスピントルク発振器の発振特性を理論的および数値的に解析し、ダイポール結合によって発振が安定化することを示した。近年、ナノサイズの発振素子の実現に向けてスピントルク発振器の研究に注目が集まっている。スピントルク発振はスピントルクとダンピングが釣り合うことで磁化が安定に歳差運動を行う現象である。発振周波数は一般に歳差の振幅に依存するので、スピントルク発振は非線形振動である。非線形振動は振動子が1個しかない場合でも解析が難しいが、著者らはそれを発振器が共振器とダイポール結合した系にまで拡張している。著者らはまず発振器と共振器が位相ロックした状態に着目し、各々の磁化と2つの磁化の位相差が一定という制限を課してその状態を特定した。次に位相ロック状態の中で共振周波数が発振器を流れる電流に依存しない(周波数の電流微分がゼロになる)電流値を見つけた。この状態では熱揺らぎによって発振器の振幅や位相が揺らいでも共振周波数は変化しないし、系はすぐに位相ロックの状態に戻ろうとするので、発振線幅が狭くなる。著者らはこの結論を振幅・位相表示のLandau-Lifshitz-Gilbert(LLG)方程式から導き、シミュレーションと比較することでその妥当性を確認した。そして典型的な材料パラメーターを使うことで、電流値が線幅最小に最適化されている状態では、他の電流値に比べ線幅が2桁小さくなることが示された。ここで示された線幅の最小化は特定の電流値(および共振周波数)でしか起こらないが、スピントルク発振器の利点は電流によって周波数を変えられることなので、今後、任意の周波数に対し線幅を狭くする原理が見つかればより面白い。スピントルク発振器の実用化には動作原理を正しく理解することが極めて重要であり、本研究はその意味でこの研究分野に非常に大きく貢献している。

(産総研 谷口知大)

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