114.01

分野:
スピンエレクトロニクス
タイトル:
スピン・ホール効果を介した強磁性絶縁多層膜における磁化ダイナミクスのシンクロナイゼーション
出典:
“Current-induced magnetization dynamics in two magnetic insulators separated by a normal metal”, Phys. Rev. B 89, 054401 (2014).
 
 
概要:
強磁性絶縁層と非磁性金属層から成る多層膜において、スピン・ホール効果によって生じるスピントルクを理論的に計算した。2つの磁化が平行に並んでいる場合、スピン・ホール効果によって振幅の異なるシンクロした磁化ダイナミクスが起こることが示された。
 
 
本文:
Norwegian科学技術大学のSkarsvagらは強磁性絶縁層/非磁性金属/強磁性絶縁層から成る3層構造において、スピン・ホール効果により生じる2つの磁化のシンクロした運動を理論的に計算した。スピン・ホール効果とは非磁性金属に電流を流すとスピン軌道相互作用によって上向きスピン電子と下向きスピン電子が逆方向に散乱され、電流と垂直な向きに純スピン流が生じる現象である。スピン・ホール効果は純スピン流の生成方法として、スピンポンピング効果・スピンゼーベック効果と並び精力的に研究されている。近年ではスピン・ホール効果によって生じた純スピン流が隣接するCo強磁性金属層に注入されることでスピントルクが生じ、Co層の磁化が反転するといった現象が実験的に確認されている(L. Liu et al., Phys. Rev. Lett. 109, 096602 (2012))。
本研究ではスピン・ホール効果だけでなく、強磁性層間の静的結合(interlayer coupling)やスピンポンピングによる動的結合が考慮され、また単にトルクを計算するだけでなく磁化ダイナミクスまで追うことにより、将来的な実験との比較が行いやすいようになっている。興味深い結論は2つの強磁性層の磁化が平行の場合には磁化ダイナミクスの振幅に差が生じるが、反平行の場合には振幅が同じという点である。これはスピン・ホール効果によって一方の層には上向きスピンが、他方には下向きスピンが注入されるため、2つの層に生じるトルクの向きが異なるからである。すると一方の強磁性層の磁化ダイナミクスが安定化されるのに対し、他方の磁化ダイナミクスは不安定になり、振幅に差ができる。このような振幅の違いは動的結合のみ考慮した以前の研究(Y. Tserkovnyak et al., J. Appl. Phys. 93, 7534 (2003)) では見られないオリジナリティの高い結論といえる。

(産総研 谷口知大)

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