19.04

分野:
スピンエレクトロニクス
タイトル:
スピン注入磁気共鳴を利用したスピントルク・ダイオード
概要:
 産総研、大阪大学、アネルバの研究グループは、強磁性体と絶縁体からなるトンネル磁気抵抗(TMR)素子にマイクロ波を照射することによりスピン注入磁気共鳴が生じ、GHz領域において周波数可変で高効率なダイオード効果を示すことを見出した。このTMR素子の検波・整流作用は、スピントロニクスの新たな高周波応用につがるものと期待される(Nature 438 (2005) pp. 339)。
本文:
 スピントロニクスがエレクトロニクスの新しい潮流として注目されている。スピントロニクス素子では、電子の電荷とスピンをともに利用することで、従来の素子にはない新しい機能や特性が得られると期待されている。産総研、大阪大学、アネルバの研究グループは、CoFeB電極(フリー層)/MgOトンネル障壁/CoFeB電極(固定層)からなるピラー型トンネル磁気抵抗(TMR)素子を作成した。このTMR素子にマイクロ波領域の交流電流を印加すると、電流がフリー層から固定層へ流れるとき、フリー層と固定層の磁化を平行にするトルクが働き、逆に固定層からフリー層へ流れるときは反平行にするトルクが働く。このスピントルクによって駆動されるフリー層磁化の歳差運動がフリー層磁化の固有振動数と一致するとき、フリー層の磁化の向きが共鳴的に大きく振動する(スピン注入磁気共鳴)。このとき、フリー層から固定層へ電流が流れているときは、両層の磁化が平行に揃うため、電気抵抗が小さくなる。他方、電流が逆方向に流れるときは、磁化が逆に向くため電気抵抗が大きくなる。このように電流の向きに依存して異なった大きさの電圧が発生するため、TMR素子の両端には直流(d.c.)の電圧が生じる。特に、共鳴周波数において大きな直流電圧が発生することが見出された。このスピントルク・ダイオード効果の発見はスピントロニクスの高周波応用にはずみをつけるものと期待される。

(東北大 高橋 三郎)

スピントロニクス

前の記事

19.03
スピントロニクス

次の記事

16.02