9.05

9.05(第5回スピンエレクトロニクス専門研究会)

ナノ構造と磁性に関する最近の話題

  2005年2月4日、国際高等研において、「ナノ構造と磁性に関する最近の話題」とのタイトルで第5回スピンエレクトロニクス専門研究会が32名の参加者を得て開催された。 講演内容の概略は以下の通りである。
   1.「強磁性半導体における磁性、磁化の電気的制御」大野英男、千葉大地、山ノ内 路彦、松倉文礼(東北大通研):InMnAs系でのキュリー温度と保磁力の電界制御、GaMnAs系でのスピン注入磁化反転と電流駆動磁壁移動について報告がなされた。GaMnAs系では金属系より2桁程度低い電流密度でスピン注入磁化反転や電流駆動磁壁移動が可能であること、電流駆動磁壁移動には低電流密度での熱活性型の領域が存在し多々良氏の理論で説明可能であることなど多くの興味ある報告がなされた。
   2.「磁壁の電流駆動の理論」多々良 源(阪大理)、河野 浩(阪大基礎工):電流駆動磁壁移動に対する理論が報告された。磁壁移動に必要な閾電流密度、閾電流密度付近での熱活性型の磁壁移動、交流電流による磁壁駆動などに対して多々良・河野理論が実験結果をほぼ定量的に記述することが示された。スピン電流による磁壁の生成の可能性を指摘し、磁壁の生成と移動を利用したデバイス提案がなされた。
   3.「AFMリソグラフィによる微小強磁性構造の作製とその特性評価」竹村泰司(横浜国立大学)、白樫淳一(東京農工大学):AFMを用いた局所酸化法による"プレーナ型"トンネル接合と微小強磁性構造の作製と、その特性評価の結果が紹介された。Ni-NiOx-Niのトンネル接合を用いて作製した、30nm正方のアイランドとソース、ドレイン、ゲート構造を持つ試料では、17Kにおいて単電子伝導によるトランジスタ動作を示した。TMRの基礎特性評価の結果では、低温において最大約100%のMR比が得られることを示した。エッジドメインの影響、反強磁性NiOや欠陥によるピニングに起因すると考えられる反転磁界の増大が観測されているが、形状異方性制御および酸化条件の最適化により改善が見込まれると述べた。
   4.「カーボンナノチューブ/強磁性金属接合における巨大磁気抵抗効果」石渡洋一、牧 英之、津谷大樹、鈴木正樹、石橋幸治(理研):強磁性金属電極間を単層CNTで連結したCoFe/CNT/CoFeなる構造のデバイスの磁気抵抗効果について報告がなされた。CNTにSWNTを用いた場合、T=1.8K, V=15mVでDR/R=1200%のGMRが観測された。GMR曲線は極めて特異で、強磁界で+H方向は低抵抗となるが-H方向は高抵抗のままで、磁化が反平行状態と推測される非対称なMR曲線を示した。また4.2Kで電圧を12V印加すると急激に低抵抗となり、電圧を10Vに下げるとまた高抵抗となる一種の金属/絶縁体転移が観測された。
   5.「カーボンナノチューブ探針を用いた高分解能磁気力顕微鏡観察」秋永広幸(産総研)、倉持宏実、安武正敏(エスアイアイ・ナノテクノロジー)、渦巻拓也、田中厚志(富士通):強磁性膜をコーティングしたCNTを探針として用いたMFMによるHDD用垂直磁気媒体の記録パターンの観察についての報告がなされた。良好なMFM動作を得るにはCoFe膜の製膜条件の最適化が必要である。現行のシステムでは最高分解能7nm~11nmで1200kFCIまで観測出来ており、将来的に1700kFCI程度までならば観察可能であると述べた。

(京大 小野輝男、三菱電機 小林 浩、松下電器 榊間 博、国際高等研 新庄輝也)

スピントロニクス

前の記事

9.03