9.03
9.03(Phys. Rev. Lett.より)
スピン発光ダイオードを用いたスピンホール効果の測定
日立ケンブリッジ研究所(以下、日立と略す)を中心とするグループは、2005年2月1日、独自に開発したラテラル構造のスピンLED を応用して、スピンホール効果の観察に成功したと発表した。
スピンホール効果は、半導体中に電流を流したとき、スピン軌道相互作用により上向きスピンと下向きスピンが逆向きに曲げられて電流路の両端に蓄積する現象である。理論的には1971年に予測されたていたが、30年あまりの間、実際に観測した例はなかった。今回日立を中心とする研究グループは、2次元正孔層の電流路の両側に、2次元電子層が隣り合わせに形成されたラテラル構造のスピンLEDを作製した。電流路の両端のLEDで発生した光のスピン偏極度を比較したところ、その符号が反対であり、蓄積しているスピンの向きが異なることを見出した。UCSD(カルフォルニア大学サンタバーバラ校)(Science、306、10th, Dec. 2004)のグループも、日立を中心とするグループとほぼ同時に、カー顕微鏡を用いた方法でスピンホール効果の観測に成功している。スピンホール効果の起源としては、スピンが不純物によって異方的に散乱されて起こるというExtrinsicな起源と、不純物なしでも起こりうるという Intrinsicな起源の二つが提唱され、後者はその可否をめぐって現在でも激しい論争が繰りひろげられている。日立を中心とするグループの実験では、正孔が高濃度に微小な導電層に閉じ込められた構造を用いており、Intrinsicなスピンホール効果の実在に大きな一石を投じたものと言える。
通常の半導体内で自由にスピン偏極が生成できるようになれば、これまで半導体へのスピン注入のため用いられていた強磁性体が不要になるだけでなく、スピン注入の効率も格段に向上する。今回のスピンホール効果の観測は、その意味で、半導体スピントロニクス応用にも大きなインパクトが期待される。
詳しくはPhysical Review Letters, 94, 047204(2005)、および以下のHPを参照。
http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2005/02/0201b.html
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20050201AT2G0100201022005.html
(日立ケンブリッジ研 伊藤顕知)