200.02

【分野】磁性材料

【タイトル】ハーフメタル完全補償型フェリ磁性体の創製に成功
Half-Metallic Fully Compensated Ferrimagnet successfully synthesized

【出典】S. Semboshi, R.Y. Umetsu, Y. Kawahito, and H. Akai, “A New Type of Half-Metallic Fully Compensated Ferrimagnet”, Scientific Reports 12, 10687 (2022), DOI:10.1038/s41598-022-14561-8
東北大学サイト
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2022/06/press20220628-01-magnet.html
東北大学サイト(英語版)
https://www.tohoku.ac.jp/en/press/halfmetal_zero_magnetization_synthesized.html
海洋研究開発機構サイト
https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20220628/
大阪大学サイト
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2022/20220628_1

【概要】東北大学金属材料研究所の千星聡准教授と梅津理恵教授、海洋研究開発機構の川人洋介上席研究員、大阪大学大学院工学研究科の赤井久純招へい教授(研究当時:東京大学物性研究所)の研究グループは、完全補償型フェリ磁性を示す新規ハーフメタル材料の創製に成功した。「遷移金属元素の価電子数を合計で10にする」という開発指針を基に、Fe、Cr、Sからなる化合物を合成したところ、低温で完全に磁化が打ち消され、かつ、補償温度以上では最大3.8Tの高保磁力を有する磁性体であることが分かった。完全補償型フェリ磁性を示すハーフメタル物質の合成に成功したことに加えて、物質の開発指針を実証した本成果は、今後の物質探索・開発を高効率化するものと期待される。

【本文】高度IT化社会を支える基盤技術には、超低消費電力、高速演算等の性能を持つ電子デバイスが必要不可欠である。これを受けて、デバイスの性能を飛躍的に向上させる磁性材料としてハーフメタルが盛んに研究されてきたが、ハーフメタル型強磁性体の研究が中心であった。ハーフメタルが反強磁性的(完全補償型フェリ磁性体)であれば、外部への漏れ磁場が発生せず、高密度に集積してもデバイス内での磁気的相互作用による擾乱が起こらなくなる。そのため、反強磁性的ハーフメタルとなる物質が長年探索されてきた。東北大学金属材料研究所の千星聡准教授と梅津理恵教授、海洋研究開発機構の川人洋介上席研究員、大阪大学大学院工学研究科の赤井久純招へい教授(研究当時:東京大学物性研究所)の研究グループは、完全補償型フェリ磁性を示す新規ハーフメタル材料の開発に成功した。「遷移金属元素の価電子数を合計で10にする」という独自の開発指針を基に、Fe, Cr, SからなるNiAs型結晶構造を有する化合物の合成に成功し、第一原理計算より、ほぼ100%のスピン分極率を有することが示唆された。完全補償型フェリ磁性体のハーフメタルを組み込んだトンネル磁気抵抗(TMR)素子は、これまでの強磁性層/反強磁性層から構成されるTMR素子よりも簡単な構造でありながら、TMR比は10~1000倍向上すると試算される。

(東北大学 梅津理恵)

A schematic illustration of tunnel magnetoresistance (TMR) multilayer using half-metal fully compensated ferrimagnet (left), and conventional TMR multilayer (right).

Magnetization curves of (Fe,Cr)S compound with NiAs-type structure below the magnetization compensated temperature (Tcomp) (left) and above Tcomp (right). The inset of the left figure shows expanded scale.

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