147.02
【分野】磁性材料
【タイトル】Nd2Fe14Bを上回る磁気特性を有するSm(Fe,Co)12の単相合成に成功
【出典】
Y. Hirayama, Y.K. Takahashi, S. Hirosawa, K. Hono, “Intrinsic hard magnetic properties of Sm(Fe1-xCox)12 compound with the ThMn12 structure”, Scr. Mater., 138 (2017) 62-65.
【概要】
物質・材料研究機構元素戦略磁石材料研究拠点の平山ら(現、産業技術研究所)は、MgO(100)単結晶基板上にV(100)を製膜した下地層上に、Sm(Fe1-xCox)12 (x = 0, 0.1, 0.2)をエピタキシャル成長させ、ThMn12型結晶構造を有するCo置換SmFe12化合物の磁気特性を評価した。その結果、Sm(Fe0.8Co0.2)12化合物が、室温で自発磁化1.78 T、異方性磁界12 T、キュリー温度859 Kを有し、ハード磁性材料の主相として広く使われているNd2Fe14Bを上回る特性を有することを確認した。今後バルク材料として安定化できる方法が見いだされれば、永久磁石材料として有望な化合物になりうると期待される。
【本文】
現在、広く応用されている最強の永久磁石は、Nd2Fe14Bを主相とするネオジム磁石である。その発見から既に約35年が経過しているが、これまでに多くの研究が行われているものの、ネオジム磁石を上回るポテンシャルを有するハード磁性相の報告は少なく、新規磁性材料の開発と発見が強く望まれている。
一般に永久磁石には、残留磁化と保磁力がそれぞれ高いことが望まれる。それらの上限値は、ハード磁性相の自発磁化と異方性磁界に支配されると考えられている。更にキュリー温度が高いほど熱的安定性も高くなり、いずれの値も高いことが高性能な永久磁石としての指針となっている。
希土類-鉄系の化合物相として、最もFe濃度が高い組成がRFe12である。しかしこの組成の結晶構造(ThMn12型)は不安定であり、構造安定化のためにAl, Cr, V, Ti, Mo, W, Si, Nbなどの遷移金属が置換元素として必要である。一方でそれらがいずれも非磁性金属元素であるために、自発磁化が大幅に低下する。そのため、例えばSmFe11Tiの自発磁化は1.27T程度であり、Nd2Fe14B相の自発磁化1.6Tよりも非常に低い値に留まっていた。また、(Sm0.8Zr0.2)(Fe0.75Co0.25)11.5Ti0.5化合物もSuzukiら[1]およびKunoら[2]によって報告されているが、Nd2Fe14Bとほぼ同等の磁気特性である。また、内部の結晶方位は等方的で、α‐Fe相を含むため、正確な磁気特性の評価には至っていない。
物質・材料研究機構 元素戦略磁石材料研究拠点(*)の平山ら(現、産業技術研究所)は、MgO(100)単結晶基板上にV(100)を製膜した下地層上に、Sm(Fe1-xCox)12 (x = 0, 0.1, 0.2)をエピタキシャル成長させ、ThMn12型結晶構造を有するCo置換SmFe12化合物の磁気特性を評価した。その結果、Sm(Fe0.8Co0.2)12化合物が、室温で自発磁化1.78 T、異方性磁界12 T、キュリー温度859 Kを有し、ハード磁性材料の主相として広く使われているNd2Fe14Bを上回る特性を有することを確認した。今後バルク材料として安定化できる方法が見いだされれば、永久磁石材料として有望な化合物になりうると期待される。
*元素戦略磁性材料研究拠点は、文部科学省の「元素戦略プロジェクト〈拠点形成型〉」により2012年度開始から2021年度終了までの予定で設置・運営されています。
[1] S. Suzuki et al., J. Appl. Phys. 120 (2016) 203904.[2] T. Kuno et al., AIP Adv. 6 (2016) 025221.
Sm(Fe1-xCox)12 と既存磁石材料の性能比較
各種希土類系磁石材料の飽和磁化と異方性磁界の温度依存性
(大同特殊鋼 秋屋貴博)