79.01

分野:
ハード磁性材料
タイトル:
Nd-Fe-B系焼結磁石の磁化反転機構の理解が深化
出典:
TMS2011 Collected Proceedings (The Minerals, Metals & Materials Society), http://www.tms.org/meetings/annual-11/techprogMAS.aspx
 
 
概要:
 カリフォルニア州サンディエゴ市で2月28日から3月3日にわたって開催されたTMSのシンポジウム “Magnetic Materials for Energy Applications” で、Nd-Fe-B系焼結磁石の保磁力発現機構に関わる微細組織解析と磁化反転シミュレーションについてのいくつかの報告があり、本系磁石材料における磁化反転機構の理解が深まった。
 
 
本文:
 米国に本拠を置くThe Minerals, Metals & Materials Society (TMS)の2011年シンポジアがカリフォルニア州サンディエゴ市コンベンションセンターで約4200人の参加者を得て2月28日から3月3日にわたって開催され、Sevilla大学のVictorino Franco氏、IFW-DresdenのOliver Gutfleisch氏、物質・材料研究機構の宝野和博氏、National Energy Technology LaboratoryのPaul R. Ohodnickiによって企画されたシンポジウム、”Magnetic Materials for Energy Applications” で、Nd-Fe-B系焼結磁石の保磁力発現機構に関わる微細組織解析と磁化反転シミュレーションについてのいくつかの報告があった。その中で、物材機構の宝野和博博士はマルチスケール解析により獲得した結晶粒界の組織と化学組成に関する知見、および、粒径を微細化した焼結磁石の磁化過程から、Nd-Fe-B系焼結磁石の結晶粒界は粒子間の磁気結合を分断しているというよりむしろ磁壁をピニングする機能を担うという可能性に言及した。St. Poelten University of Applied SciencesのThomas Schrefl博士はLLG方程式を用いた20nm角単結晶内の磁化反転挙動解析、分子動力学(MD)シミュレーションを用いた界面原子配列の生成、多粒子モデルを用いた有限要素法とLLGによる磁化伝搬解析を含むマルチスケールシミュレーションにより、Nd-Fe-B焼結磁石における逆磁区核発生と伝搬挙動を計算し、磁化反転が主として粒界3重点近傍で始まるとした。また、粒界3重点近傍で主相との界面付近に見られる面心立方構造のNdリッチ相の生成機構に関して、東北大学の陳迎博士はNdが面心立方の副格子を組むとみなせるZnS型NdO化合物の酸素格子から大量の酸素が欠損した不規則相の自由エネルギーをクラスター展開法を用いて計算し、そのような構造の自由エネルギーが同一組成(酸素濃度)のNd-NdO混合物とほぼ同じエネルギーになったことから、そのような非平衡相が磁石内に生成する可能性を説明した。

 同シンポジウムでは希土類磁石の応用から希少希土類元素代替技術、マルチスケール組織解析、異方性ナノコンポジット磁石の開発、米国エネルギー省の高性能磁石開発プロジェクトからの研究報告など、幅広い研究報告がなされ、次世代高性能磁石開発に向けた研究が活発化していることが明瞭に示された。

(日立金属(株) 磁性材料研究所 広沢 哲)

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