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分野:
磁気応用
タイトル:
第7回強磁場応用専門研究会
概要:
 2009/9/7大阪大学 吹田キャンパスにて開催、参加者は22名であった。強磁場を利用すれば、反磁性物質や常磁性物質に対しても重力と同程度の大きさで磁気力を作用させることができる。磁気力は遠隔的に作用させることのできる力であるため、物質内部の組織制御や、物質分離への利用に適しており、その応用が盛んに研究されてきた。今回の強磁場応用専門研究会では、弱磁性物質に対する強磁場利用でも、特に実用化が進んでいる「磁場配向」と「磁気分離」にスポットをあて、それぞれの分野の専門家に御講演を頂き、大変活発な議論が行われた。また、講演会終了後には工学研究科環境エネルギー工学専攻の西嶋研究室の見学が行なわれた。
本文:
 

  1. 「磁場を用いた材料プロセッシング」 木村恒久 (京大)
    動的磁場および動的楕円磁場を利用した物質配向法の原理やその事例について紹介された。まず、磁場エネルギーおよび磁気異方性が生み出す配向エネルギーは熱エネルギーと十分競合できるものであり、磁場配向は他の手法に比べて適用範囲が広いことが述べられた。これを踏まえ、最近のトピックスとして、静磁場における一軸配向だけでなく、回転磁場における磁化困難軸配向や動的楕円磁場における三軸配向について、これらの原理と実例を交えた解説がなされ、磁場の回転速度により、粒子の磁化軸あるいは磁化困難軸の追随の様子と配向過程が異なることが示された。また、磁気異方性がない物質でも導電性物質であればリング・ロッドなど形状に異方性を持たせ、回転磁場を利用することで配向が可能となることも示し、磁場配向に適用できる物質は飛躍的に広がっていることが述べられた。また、LiCoPO4やL-Alanine、セルロースを例にとりエポキシ樹脂中での三軸結晶配向が実現し、擬単結晶化できたことや、エポキシ樹脂中での三軸配向体を用いても中性子による結晶学的解析が可能であることも実験結果を交えて報告された。
  2. 「超電導磁気分離の新展開」 西嶋茂宏 (阪大)
    超電導磁石を利用した磁気分離技術の実用化例の紹介と、今後の展開の方向性について議論された。半導体切断に使用される切削オイルの再生では、SiC砥粒にワイヤーソー由来の鉄が付着することを利用して、2 Tの磁場を用いて磁気分離することで96%の効率で鉄付着SiCを除去し、83%の切削オイル再生に成功しているという。磁性の小さな物質が分離対象となる場合でも、分離対象に磁性物質を付着させる磁気シーディングにより高効率の分離が可能になる。再生紙工場の排水は白濁し化学的酸素要求量(COD)が2000 ppmにもなるため、広大な沈殿槽を使用して水中の浮遊物を除去する必要があるが、磁気シーディングを行ない3 Tで磁気分離することで、濁度10、COD 40 ppmにまで浄化でき、従来は廃水となっていた水を循環利用できるようになった例が紹介された。従来の処理法に比べ、初期コストが1/6、ランニングコストも安価な上、設置面積も縮小でき、大きな経済効果が得られたという。医療・バイオの分野への展開も検討されており、ドラックデリバリーに適用した例では、血管の分岐点で磁気力を作用させることで高効率の薬剤誘導が実現するという。超電導磁気分離は多様な媒体に適用することが可能であり、種々の対象について、濃縮・分離・分画・分級手段としての利用できる。今後は、環境技術としての応用展開が望まれるとのことであった。

(物材機構 廣田憲之)

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