88.02

分野:
磁気物理
タイトル:
バルクのAuにおける常磁性状態を放射光で検出
出典:
“Measurement of a Pauli and Orbital Paramagnetic State in Bulk Gold Using X-Ray Magnetic Circular Dichroism Spectroscopy”
Motohiro Suzuki, Naomi Kawamura, Hayato Miyagawa, Jose S. Garitaonandia, Yoshiyuki Yamamoto, and Hidenobu Hori
Phys. Rev. Lett. 108, 047201 (2012)
 
 
概要:
 (財)高輝度光科学研究センター(JASRI)の鈴木基寛らの研究チームは、Auの磁気特性について磁気円二色性(XMCD)を用いて解析した。Auは代表的な反磁性として知られているが、XMCDを用いた精密測定を2.3Kから300Kの温度領域、ならびに10Tまでの強磁場下で行ったところ、微弱な常磁性成分を検出することに成功した。XMCDスペクトルの解析により、Auの5d電子のスピンおよび軌道常磁性帯磁率を決定した。
 
 
本文:
 これまでAuは代表的な反磁性体として知られてきた。その一方でAuがナノ粒子化すると強磁性となることも報告されており、Auの磁気機能に対する本質的なメカニズムには未解決の問題が多い。JASRIの鈴木らは、バルクAuの磁気特性についてXMCDを用いた精密測定を実施したSPring-8の高輝度円偏光放射光を試料に入射し、X線吸収スペクトルの偏光に対する非対称性を測定することで、磁気モーメントの起源を精密に計測することができる。XMCD測定では元素選択的な磁気測定が可能である。また、スピンおよび軌道磁気モーメントに関する電子状態の非対称性を直接観測するため、強磁性あるいは常磁性状態に対しては測定感度があるが、反磁性状態は検出されないという特徴がある。実験ではAuのL3,2吸収端(2p→5d)領域をスキャンすることで5d電子の電子スピン状態を解析した。
 その結果、XMCD強度は外部磁場に比例して増加することが確認された。また300Kから2.3Kの温度領域において、MCD強度は一定で変化が無いことが確認された。このことからAuはPauliの常磁性であることが示唆された。XMCDスペクトルに磁気総和則を適用して解析を行った結果、2.3K、10Tの磁場下では、Auのスピン磁気モーメントは9.8×10-5μB/atom、軌道磁気モーメントは2.3×10-5μB/atomとなり、合計で1.26×10-4μB/atomとなった。これより常磁性としての帯磁率を算出すると8.9×10-6となり、理論値である5.8×10-6と良い一致を示した。通常の磁化測定では反磁性の信号に埋もれて、Pauliの常磁性を検出するのは困難であったが、MCDによる精密測定により、常磁性成分のみを精度良く検出することができた。また、軌道磁気モーメントとスピン磁気モーメントの比を計算すると0.28±0.04であり、他のAu系磁性体に比べて5d電子の軌道磁気モーメントの寄与が2~3倍高いことが明らかとなった。原因としてはスピン軌道相互作用あるいはkubo-Obata orbital 帯磁率が挙げられた。

(高輝度光科学研究センター 小嗣真人)

磁気物理

前の記事

88.01
スピントロニクス

次の記事

109.01