229.03
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【分野】磁気記録
【タイトル】スピントルク熱アシスト磁気記録方式の原理実証
【出典】
・S. Isogami, Y. Sasaki, Y. Fan, Y. Kubota, J. Gadbois, K. Hono, and Y.K. Takahashi, “Thermal spin-torque heat-assisted magnetic recording”, Acta Materialia 286, 120743 (2025).
DOI 10.1016/j.actamat.2025.120743
・NIMS プレスリリース 2025年2月10日
https://www.nims.go.jp/press/2025/02/202502100.html
【概要】
NIMSは、米国Seagate Technology社との共同研究により、従来の熱アシスト磁気記録にスピントルクを組み合わせることで、記録効率を35%向上させる新たな記録原理を実証した。本研究により、磁気記録時の熱エネルギー消費を削減し、HDDの耐久性と信頼性の向上が期待される。
【本文】
従来の熱アシスト磁気記録方式では、レーザーで媒体を加熱して情報を記録するが、その熱エネルギーは媒体内で廃熱され、記録効率に寄与していなかった。また、媒体を高温に加熱するプロセスは多くのエネルギーを消費し、繰り返し動作による磁気的・物理的な劣化や、媒体そのものの損傷が課題とされてきた。
当研究グループは、レーザー照射時に記録媒体内に生じる温度差に着目し、鉄白金(FePt)記録層の下層にマンガン白金(MnPt)反強磁性層を挿入する新たな構造を開発した(図1)。この構造により、従来の熱アシスト磁気記録方式と比較して約35%の記録効率向上を達成した(図2)。この成果は、温度差によって発生するスピンがスピントルクを生み出し、磁化反転を補助することで、従来の熱アシスト効果を増強した結果である。さらに、本研究により、スピントルク効果のHDDへの応用が可能であることを実証し、新たな記録技術の道筋を示した。今後、本研究の成果を基に、鉄白金(FePt)ナノグラニュラー媒体への適用を進め、スピントルク熱アシスト磁気記録をHDDの主要記録方式として実用化することを目指す。これにより、HDDの大容量化や消費電力の削減が可能となり、次世代HDD技術の発展が期待される。
(NIMS 磯上慎二)

【図1】スピントルク熱アシスト磁気記録の原理。レーザーによる加熱により MnPt 層に温度差が生じ、それによってスピン(緑色矢印)が FePt 層に注入される。 このスピンはスピントルクを生み出し、磁化反転を補助する。従来の熱アシスト磁気記録では熱による磁化の変化のみが記録に寄与したが、本研究ではスピンが新たな磁化制御の役割を果たす。

【図2】熱アシストとスピントルク効果による保磁力低減の比較。レーザー照射により保磁力が最大80%低減し、そのうち35%がスピントルク効果によるもの。従来の熱アシスト効果(赤矢印)に加え、スピントルク効果(青矢印)が働くことで、さらに保磁力が低減する。