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【分野】磁気応用

【タイトル】液体ヘリウム使用を大幅に削減した超伝導1.5テスラMRI装置

【出典】
シーメンスヘルスケア株式会社 (2024年プレスリリース)
URL: https://www.siemens-healthineers.com/jp/press-room/press-releases/pr-20241105-magnetom-flow

【概要】
シーメンスヘルスケア株式会社から、「ヘリウムフリー構造」を採用した1.5テスラMRI装置の発売が発表された。液体ヘリウム使用量の大幅な削減だけでなく、省エネ化や装置の小型・軽量化が実現された。

【本文】
 MRI(Magnetic Resonance Imaging)は体内の水素原子の分布を画像化する装置として、現代医療には欠かせない画像診断装置となっている。医療機関で使用されているMRI装置には主に1.5テスラまたは3.0テスラの超伝導磁石が使用されており、液体ヘリウムによる冷却が欠かせない。
 日本で消費されるヘリウムは、100%が輸入品である。生産国の都合や世界情勢の変化、パンデミック等の影響により、最近では価格の高騰とともに入手性が著しく悪化している。MRI装置もこの数年で冷凍機によるヘリウムリサイクルシステムの導入が進んでいた。しかし、大量の液体ヘリウムを使用していることには違いがなく、液体ヘリウムの再補充やクエンチ対策のための排気管が必要といった課題が残されていた。
 シーメンスヘルスケア株式会社は、液体ヘリウムの再補充が不要な1.5テスラMRI装置の販売を開始したと発表した。0.7 Lの液体ヘリウムを冷却装置内に密閉することにより、液体ヘリウムの再補充やクエンチ対策用の排気管が不要になったとのことである。さらに、装置の稼働状況に応じて冷凍機のコンプレッサーを自動的に停止する省エネ機能も組み合わされており、電力消費量を従来機(同社製1.5テスラMRI装置)に比べて最大40%低減できるとのことである。
 また、国内では液体ヘリウムを使用しない1.5テスラMRI装置が富士フイルムヘルスケア株式会社から発売されている[1]。この装置は冷凍機の極低温を超伝導磁石に直接伝搬する構造になっているため、液体ヘリウムを一切使用しない[2]。また、吸着事故時には緊急時を除き、ユーザー自身により最大120分でシステムの復旧作業が可能という点も特徴として挙げられている。
 液体ヘリウムの消費を大幅に削減もしくはゼロにしたMRI装置が2024年に相次いで発売された。現時点では3.0テスラMRI装置には未適用であるが、今後の技術革新が期待される。日本国内の液体ヘリウム消費の69%(2023年)がMRIおよびNMRとなっており[3]、MRI装置の液体ヘリウム消費量の削減は、産業用途や低温工学といった他分野への液体ヘリウム供給の安定にもつながると期待される。

[1] 富士フイルムメディカル株式会社ニュースリリース 
URL: https://www.fujifilm.com/fms/ja/news/279 
[2] 京谷勉輔,「液体ヘリウムを全く使わない1.5T超電導MRI ECHELON Smart ZeroHelium」,JIRAテクニカルレポート, Vol.34, No.2, 通巻第66号, pp.26–27, 2024.
[3] 一般社団法人 日本産業・医療ガス協会 ヘリウム生産・販売実績 2019年~23年実績推移 
URL: https://www.jimga.or.jp/files/page/statistics/regularly/TRU_he_2019-23.pdf

(金沢工業大学 小山大介)

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