225.01

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【分野】磁気物理

【タイトル】強磁性体における圧磁効果を発見
     -必然でありながら半世紀以上知られていなかった強磁性圧磁効果の初観測-

【出典】
・京都大学ホームページ(2024年プレスリリース)
URL: https://www.t.kyoto-u.ac.jp/ja/research/topics/20240920
・Mikiya Tomikawa, Ryo Araki, Atsutoshi Ikeda, Ai Nakamura, Dai Aoki, Kenji Ishida, and Shingo Yonezawa
“Piezomagnetism in the Ising ferromagnet URhGe”,
Phys. Rev. B 110, L100408 (2024).
DOI:10.1103/PhysRevB.110.L100408
URL: https://journals.aps.org/prb/abstract/10.1103/PhysRevB.110.L100408

【概要】
京都大学大学院工学研究科 米澤進吾 教授、富川幹也 大学院理学研究科修士課程学生(研究当時)、荒木遼 同修士課程学生(研究当時)、大学院理学研究科 石田憲二 教授らの研究グループ は、東北大学金属材料研究所の青木大 教授、仲村愛 助教らと共同で、強磁性化合物URhGeが圧磁効果を示すことを発見した。この成果は圧磁効果を示す物質の探索幅を爆発的に広げ、圧磁効果の基礎的理解の大きな進歩や、応用に足る巨大圧磁効果物質の探索の指針を与えるものである。

【本文】
外部磁場の印加によって物質が伸縮する現象は磁歪効果として知られているが、通常の磁歪は外部磁場の二乗に比例するのに対して、磁場の一乗に比例する圧磁効果と呼ばれる現象がある。通常の磁歪は低磁場では非常に小さくなってしまうのに対して、圧磁効果は磁場が小さくてもひずみを引き起こすことが可能であり、磁場センサーやアクチュエーターへの応用も期待されている。一方で、現在までに圧磁効果が確認されている物質は特殊な磁気構造を持つ反強磁性体のみであり、強磁性体での効果発現の報告は無かった。これは強磁性体における磁区の発生による圧磁効果の打ち消しや磁区の変化に起因する磁歪効果が生じることが、圧磁効果の観測を極めて困難にしている為であると考えられる。
 本研究ではイジング的強磁性体であり、0.3 K以下で超伝導を示すURhGeの単結晶試料において、光ファイバーベースのひずみゲージであるFBGを用いて磁場中でのひずみを精密に測定したところ、結晶のc軸方向に磁場を印加した場合にb軸方向とc軸方向の相対的なひずみΔL/Lと外部磁場の関係が9.5 K以下の強磁性状態においてはV字型になることを発見した。一方で、その他の磁場方向ではこのようなV字型の振る舞いは観測されず、通常の磁歪から期待されるような磁場の二乗に比例する放物線型のひずみが観測された。また、他の実験結果から磁場を反転させるとURhGe試料の磁化が、磁区を作る間もなく完全に反転することがわかった。この特徴はイジング的強磁性体であることと関連していると考えられる。すると、観測されたV字型のひずみ-磁場曲線は、磁場に比例するひずみ(圧磁効果)と、磁区を作らない磁化反転を組み合わせることで説明が可能である。さらに、本研究から得られたURhGeの圧磁効果の大きさを表す応答係数は+8.0×10-6 T-1であり、これまでに知られている反強磁性体の圧磁効果の最大値(10~20×10-6 T-1)と比較しても遜色ない大きさであった。
 今回の強磁性化合物URhGeにおける圧磁効果の発見により、より大きい圧磁効果を示す物質や応用しやすい条件下での圧磁効果を示す物質を探索するうえでの条件が大きく緩和され、圧磁効果の応答の大きさを理論的に理解する研究などへの波及効果も期待される。

(大同特殊鋼 梶並佳朋)

Fig1. URhGeで観測されたV字型のひずみ-磁場曲線及び圧磁効果の概念図

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