221.01

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【分野】磁気物理

【タイトル】反強磁性ワイル半金属Mn3Snのクラスター磁気八極子ドメインの観測

【出典】
・“Observation of Cluster Magnetic Octupole Domains in the Antiferromagnetic Weyl Semimetal Mn3Sn Nanowire”
Hironari Isshiki , Nico Budai, Ayuko Kobayashi, Ryota Uesugi, Tomoya Higo, Satoru Nakatsuji, and Yoshichika Otani, Phys. Rev. Lett. 132, 216702 (2024).
DOI: 10.1103/PhysRevLett.132.216702
URL: https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.132.216702
・東京大学 物性研究所 (2024年プレスリリース)
https://www.issp.u-tokyo.ac.jp/maincontents/news2.html?pid=23008

【概要】
Hironari Isshikiらのグループは原子間力顕微鏡を用いて反強磁性ワイル半金属Mn3Sn表面に局所的に熱流を注入し、磁気熱電効果を高い空間分解能で検出して磁気分極の空間分布を可視化することに成功した。

【本文】
ワイル半金属 Mn3Snは大きな磁気熱電効果を示す反強磁性体であり、次世代スピントロニクス材料として大いに期待されている。Mn3Snの磁気熱電効果の起源を解明する上で欠かすことができないのが、磁気分極の空間分布を可視化する磁気イメージングである。しかし、従来手法では空間分解能や測定原理に由来する制約等、様々な問題があり、微細加工されたMn3Sn の測定が困難であった。東京大学物性研究所のHironari Isshikiらのグループは2023年に原子間力顕微鏡を用いてワイル半金属の磁気分極の空間分布を高い空間分解能でイメージングする手法を開発し[N. Budai et al., Appl. Phys. Lett. 122, 102401 (2023).]、今回、本手法を用いて多結晶 Mn3Snナノ細線の磁気イメージングに取り組んだ。この手法では、図(a)に示すように、原子間力顕微鏡の微小な針から試料に熱流を注入して局所的に発生した磁気熱電効果によって生じる電圧の符号から磁気分極の方向が分かることを利用して磁気イメージングを行う。実験では原子間力顕微鏡によりMn3Snナノ細線の凹凸像 (トポグラフィー像:図(b))と磁場印加前後の磁気像を取得した。結果、図(c)のように、磁場印加前の磁気像では数百ナノメートル程度の大きさの上向き、下向きの磁気分極を示す領域がランダムに存在することが確認された。次に、磁気分極の磁気的応答を調べるため、上向きに外部磁場を印加後に外部磁場を取り去って、同じ領域の磁気像を取得した。結果を図(d)に示す。磁場印加後は下向きの領域が完全に消え、上向きの領域が広がっていることがわかった。得られた結果より、(1)外部磁場を取り去った後でもMn3Snの磁気分極がナノ細線の幅方向(短手方向)に残留し、さらに、(2)磁気熱電信号を生成しない結晶粒が存在することが示された。(1)は反強磁性体で予想されるように形状磁気異方性がないことを、(2)は多結晶試料のこの領域の磁気分極が紙面垂直方向を向いていることを示唆している。本研究によって、ワイル半金属Mn3Snナノ細線の磁気分極の空間分布という、これまで実験的に観測することが困難であった貴重な情報を直感的な形で得ることに成功した。

 (名古屋大学 宮町俊生)

図 (a) 局所熱流注入による磁気イメージングの概略図.、(b) 試料のトポグラフィー像.、(c), (d) 初期状態およびy方向へ外部磁場印加後の残留磁気分極状態の異常ネルンスト電圧マッピング像.

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