213.01

【分野】
磁性材料

【タイトル】
二酸化炭素の吸着で磁石になる多孔質材料を開発
-ガス吸着に伴う構造変化に起因する磁気相変換は世界初-

【出典】
・東北大学ホームページ(2023年プレスリリース)
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2023/01/press20230127-02-magnet.html
Wataru Kosaka, Honoka Nemoto, Kohei Nagano, Shogo Kawaguchi, Kunihisa Sugimoto, and Hitoshi Miyasaka
“Inter-layer magnetic tuning by gas adsorption in π-stacked pillared-layer framework magnets”,
Chemical Science 14, 791 (2023), Edge Article
DOI:10.1039/d2sc06337a
URL: https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2023/sc/d2sc06337a

【概要】
国立大学法人東北大学金属材料研究所の高坂亘准教授と宮坂等教授の研究グループは、近畿大学理工学部の杉本邦久教授および公益財団法人高輝度光科学研究センターの河口彰吾主幹研究員との共同研究により、二酸化炭素の吸脱着で磁化のON-OFFが可能な多孔性材料(TCNQ誘導体からなる層状分子磁石)の開発に成功した。さらに、SPring-8のBL02B2で二酸化炭素の吸着および脱離状態の結晶構造を精査した結果、その磁気相変換の機構が層状磁石の層間構造変化(特に層関距離)に起因することを明らかにした。一般的なガス分子の吸着に伴う構造変化のみで磁気相を変換する磁石は初めての報告である。層状構造を持つ他の磁性材料へ幅広く応用可能であり、これを利用した分子認識磁石センサーや分子応答磁気ジャンクション等、今後の発展が期待される。

【本文】
金属イオンと有機配位子の複合化によって合成される金属錯体を基にした多次元格子「金属・有機複合骨格(Metal-Organic Framework,略称:MOF)」と呼ばれる分子性多孔性材料は、構成する金属イオンや有機物における付加的要素の高設計性、格子と空間の両方の特性を利用可能、などといった利点を持つため、戦略的に多機能性磁石の開発が可能である。今回は、π-スタック型ピラードレイヤー化合物[MCp2*][{Ru2(2, 3, 5, 6-F4PhCO2)4}2(TCNQ)], (M = Co, 1, Fe, 2, Cr, 3; Cp* = η5-C5Me5; 2,3,5,6-F4PhCO2-= 2,3,5,6-tetrafluorobenzoate; TCNQ = 7,7,8,8-tetracyano-p-quinodimethane)を新たに開発し、磁化測定により磁気特性を調べた。その結果この化合物は75K以下で反強磁性を示し、10kPa以上のCO2を導入することにより、76Kの転移温度をもつフェリ磁性体になることがわかった。一方、窒素や酸素を導入した場合は68Kの転移温度をもつ反強磁性であった。
 さらに、大型放射光施設SPring-8-BL02B2を用いて、吸着状態および脱離状態の結晶構造等を精査した。その結果、二酸化炭素導入圧が10 kPa~20 kPaの付近を境に、高圧側で磁石層間の距離が大きく伸長していることが明らかとなった。これまでの研究から、層間距離が1.06nmを境界として、これより短ければ反強磁性体、長ければフェリ磁性体となる傾向にあることをみいだしているため、今回観測されたCO2導入による反強磁性-フェリ磁性転移はCO2の導入による層間距離の伸長に起因することがわかった。
今回新たに見出された材料は従来からよく知られた電場・磁場・光・圧力などの物理的な刺激とは異なり、「分子吸脱着」という化学的な刺激により駆動する材料として、高機能分子デバイスの実現へ向けて、基礎・応用の両面から研究の展開が期待される。

(群馬大学 櫻井浩)

Antiferromagnetic-Ferrimagnetic transition with CO2 adsorption in π-stacked pillared-layer TCNQ compound.

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