212.03
【分野】スピントロニクス
【タイトル】大きな電圧磁気異方性制御(VCMA)効果が得られるCo/酸化物界面を多角的に調査
【出典】Tomohiro Nozaki, Jun Okabayashi, Shingo Tamaru, Makoto Konoto, Takayuki Nozaki, and Shinji Yuasa, “Understanding voltage-controlled magnetic anisotropy effect at Co/oxide interface”, Sci. Rep. 13, 10640 (2023). https://doi.org/10.1038/s41598-023-37422-4
【概要】産総研の野崎友大主任研究員らは、大きなVCMA効果が得られるCo/酸化物界面を多角的・系統的に調査し、その原因解明を目指した。VCMA効果の大きさに対応したCoの軌道磁気モーメントの変化が観測され、微量の重元素がCo/酸化物界面付近に拡散することが軌道磁気モーメントやVCMA効果の増大につながっていると推察される。本成果によって、これまで理解が進んでいなかったCo/酸化物界面のVCMA効果の研究が加速し、さらなる性能向上につながることが期待される。
【本文】
磁気抵抗メモリ(MRAM)は、埋め込み型(eMRAM)の商品化も始まり、今後一層の市場規模の拡大が予想されている。その中で、MRAMをさらに低消費電力で駆動する技術として、電圧磁気異方性制御(VCMA)効果が期待されている。bcc(001)配向の強磁性体を用いたFe/MgO界面では、大きな界面垂直磁気異方性(iPMA)が報告され、VCMA効果も精力的に研究がなされてきた。一方、fcc(111)配向の強磁性体を用いたCo/酸化物界面も、iPMAが得られる典型的な界面であり、大きなVCMA効果の報告もある。しかし、系統的な調査は行われておらず、Fe/MgO界面のVCMA効果と比べて、理解が進んでいなかった。
これまでの研究で野崎らは、Pt/Ru/Co/CoO構造において、ポストアニール前は小さなVCMA効果が、適切な温度のポストアニールで劇的に向上することを見出した(Sci. Rep. 11, 21448 (2021))。本研究では、同構造のポストアニール前後の特性を多角的・系統的に調査し、VCMAの劇的な向上の原因解明を目指した。構造の変化は断面の透過型電子顕微鏡(TEM)分析からはほとんど判別できないほどわずかなものであったが、X線磁気円二色性(XMCD)からは、Co/CoO界面で軌道磁気モーメント(morb)の明確な増大が確認された。これまでの結果も総合して考えると、アニールによってCo/CoO界面付近へ拡散した微量のPtがCoの軌道磁気モーメントを増大させ、VCMAも向上させていると推察される。最近、微量の重元素の挿入によるVCMAの増大がCo/MgO界面でも別途報告されており(Appl. Phys. Lett. 112, 032403 (2023))、今回の結論を裏付けるものである。ここで得られた知見を基に、Co/酸化物界面のVCMA効果の研究が進み、さらなるVCMAの増大につながることが期待される。
(NIMS 増田啓介)