208.01
【分野】磁気応用
【タイトル】脳磁計校正用の新しいコイルアレイを開発
【出典】
Y. Adachi, D. Oyama, M. Higuchi and G. Uehara, “A Spherical Coil Array for the Calibration of Whole-Head Magnetoencephalograph Systems,” in IEEE Transactions on Instrumentation and Measurement, vol. 72, pp. 1-10, 2023, Art no. 4004210, doi: 10.1109/TIM.2023.3265750.
【概要】
Adachiらのグループは脳磁計を校正するための新しいキャリブレーションコイルアレイを開発したと発表した。
【本文】
脳内の神経活動の様子を磁気的に観測する脳磁計は一般的に、100チャンネルを超える磁気センサアレイによって構成されている。観測した脳磁信号から神経活動部位を正しく推定するためには各磁気センサの位置や向き、出力電圧-磁束密度換算値(以下、感度値)を正しく知る必要がある。脳磁計で使われている超伝導磁気センサの場合、センサアレイを組み立ててから超伝導温度にまで冷却するが、冷却によってセンサホルダが変形し、センサ位置が冷却前に比べて数mm程度変化することが知られている。
金沢工業大学・足立らのグループはこれまでに、冷却後の磁気センサの位置や向き、感度値を知る方法として、脳磁計のためのキャリブレーション手法の開発をおこなってきた。コイルアレイから既知の磁気信号を発生し、観測された信号の大きさから数値計算によって磁気センサの位置や向き、感度値を推定することができる。
従来のキャリブレーション用コイルアレイは直径約30 mmの球体に3軸にコイルを巻いたセットを6ないしは8セット配置していた。このため、コイル製作時における形状誤差や組み立て精度の影響により、キャリブレーションの精度向上に限界があった。
そこで本研究では、新たに直径150 mm の球体に16個のコイルを巻いた球形キャリブレーションコイルアレイが開発された(Fig. 1)。16個のコイルはそれぞれ独立しており、コイルの軸方向は球体に内接する仮想的な正20面体の頂点および面の法線ベクトルによって決められている。本論文内ではコイル構造の詳細に加え、従来コイルアレイと比べた有効性の評価実験結果や、得られた磁気センサの位置や向き、感度値に関する不確かさの算出方法についても紹介されている。
近年は超伝導磁気センサだけでなく室温の磁気センサを用いた生体磁気計測装置の開発が進んでいる。これらは冷却する必要が無いため比較的自由に磁気センサアレイを構成できることが魅力の一つであるが、この場合も、センサの位置・向きの校正が必須となる。本論文で紹介されたコイルアレイは磁気センサの種類を問わずキャリブレーションを実施することが可能であり、今後の超高感度磁気センサ・計測システムの開発に大いに貢献できると期待される。
(金沢工業大学 小山大介)