204.01
【分野】スピントロニクス
【タイトル】SrTiO3トンネルバリアを用いた(111)配向磁気トンネル接合
【出典】Keisuke Masuda, Hiroyoshi Itoh, Yoshiaki Sonobe, Hiroaki Sukegawa, Seiji Mitani, and Yoshio Miura, “Band-folding-driven high tunnel magnetoresistance ratios in (111)-oriented junctions with SrTiO3 barriers”, Phys. Rev. B 106, 134438 (2022).
DOI: 10.1103/PhysRevB.106.134438
【概要】物質・材料研究機構の増田らは、SrTiO3をトンネルバリアに用いた、新規な(111)配向磁気トンネル接合に対して第一原理計算に基づいた伝導計算を行い、大きなトンネル磁気抵抗比が得られることを予測した。バンド折りたたみ効果によって強磁性電極がΛ1ハーフメタル性を持つことが、大きなトンネル磁気抵抗比の要因であることが明らかにされた。
【本文】磁気トンネル接合(MTJ)は、磁気センサーや磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)に応用されるスピントロニクスデバイスであり、これらの応用に際してはより高いトンネル磁気抵抗比(TMR比)を達成することが望まれる。従来、Fe/MgO/Fe(001)を代表とする、(001)配向MTJに対しては多くの研究が行われ、理論で予測された高いTMR比が実験でも実証されてきた。その一方、(111)配向などその他の配向性を持つMTJの研究は発展途上にある。近年、本著者らは(111)配向性をもつMgOをトンネルバリアとするMTJに対し理論研究を行い、高いTMR比の発現可能性を予測してきた(K. Masuda et al., Phys. Rev. B 101, 144404 (2020); Phys. Rev. B 103, 064427 (2021))。
本研究で増田らはSrTiO3(111)をトンネルバリアとする新たな(111)配向MTJ、X/SrTiO3/X(111)(X = Co, Ni)に対し、第一原理計算に基づく伝導計算によりTMR比の理論予測を行った。計算の結果、Co/SrTiO3/Co(111)で534%、Ni/SrTiO3/Ni(111)で290%という大きなTMR比が得られることがわかった。これらのMTJでは、SrTiO3の面内格子周期が強磁性電極の2倍となるため、MTJの(x, y)平面に対応する(kx, ky)平面で強磁性電極のバンドが折り畳まれる。このようなバンド折り畳み効果により、強磁性電極がΛ1(ラムダ1)状態におけるハーフメタル性をもち(※)、高いTMR比が得られることが明らかにされた。今後の実験の進展により、今回の系をはじめとする(111)配向MTJで高いTMR比が観測されることが期待される。
(※)従来の(001)配向MTJにおいては、Δ1状態がトンネル伝導に関し重要となるが、(111)配向MTJにおいては、(111)方向に対応するΛラインで最も対称性が高いΛ1状態が重要となる。
(物質・材料研究機構 中谷友也)