196.01
【分野】磁気物理
【タイトル】スピン偏極STMによるネオジム磁石のスピン偏極電子状態と磁壁幅の高分解能観察
【出典】
Toshio Miyamachi, Christoph Sürgers, and Wulf Wulfhekel,
“Resolving the spin polarization and magnetic domain wall width of (Nd,Dy)2Fe14B with spin-polarized scanning tunneling microscopy”,
Appl. Phys. Express 14, 115504 (2021). https://doi.org/10.35848/1882-0786/ac2a56
【概要】
Toshio Miyamachiらのグループはスピン偏極走査トンネル顕微鏡を用いてネオジム磁石表面の実空間・高分解能観察を行い、そのスピン偏極電子状態と磁壁幅をサブナノスケール分解能で明らかにした。
【本文】
NdFeB磁石は現在まで最も高い磁気特性を示す永久磁石として各種制御モーターに幅広く利用されている。近年では結晶粒の微細化や界面制御による保磁力の増大等、さらなる高機能化に向けて基礎応用の両面から研究が精力的に行われている。NdFeB磁石の保磁力は結晶粒内の磁壁の存在に大きく左右されるため、磁区構造をミクロに観察しながら微細構造との相関関係を明らかにすることは磁気特性向上の基礎原理を解明するために必要不可欠である。しかし、NdFeB磁石はその高磁気異方性に由来して磁壁幅が数ナノメートと狭く、高い空間分解能で磁壁幅を正確に評価することはこれまで困難であった。
名古屋大学 未来材料・システム研究所のToshio Miyamachiらのグループは原子分解での表面構造と電子・磁気状態の実空間観察が可能な唯一の手法であるスピン偏極走査トンネル顕微鏡(STM)を用いてNdFeB磁石表面のスピン偏極電子状態と磁気構造を調べた。試料にはDyが微量添加されたナノ結晶粒バルクNdFeB磁石が用いられた。まず、清浄表面作製条件をSTM構造観察によって調べ、NdFeB磁石をAr+スパッタリング後、約600℃での加熱処理により大面積かつ原子レベルで平坦な表面を作製できることを明らかにした。また、STM高さプロファイルと表面原子像から、NdFeB磁石表面にはFe cサイトが存在していることが示された。その後、スピン偏極STM分光測定を行い、理論計算との比較からフェルミ準位近傍に観測されたスピン偏極準位はFe cサイトに由来し、表面構造観察の結果と一致することがわかった。さらに、NdFeB磁石表面磁気像中の磁壁幅をサブナノスケールの高分解能で評価することに成功し、高性能永久磁石の磁気特性評価におけるスピン偏極STMの有用性を実証した。
(名古屋大学 宮町俊生)