195.01

【分野】スピントロニクス

【タイトル】
磁気熱電効果を取り入れたスピン軌道トルクの精密な測定手法の開発に成功

【出典】
・Takanori Shirokura, and Pham Nam Hai,” Angle resolved second harmonic technique for precise evaluation of spin orbit torque in strong perpendicular magnetic anisotropy systems”
Appl. Phys. Lett. 119, 222402 (2021); https://doi.org/10.1063/5.0074629
・https://educ.titech.ac.jp/ee/news/2021_11/061530.html

【概要】
磁気熱電効果を取り入れたスピン軌道トルクの精密な測定手法の開発に成功した。現在におけるスピンホール角θSHの標準的な測定手法は、純スピン注入源層と強磁性層の接合膜に交流電流を印加し、そのホール電圧の二次高調波成分を測定する二次高調波法である。二次高調波法では、試料面内に外部磁場を掃引する。この外部磁場の掃引範囲に応じて、二次高調波法は高磁場法と低磁場法の二種類に大別されるが、それぞれに異なる欠点があった。本研究では、外部磁場の極角分解測定を行うことで、双方の欠点を克服しつつ正確にθSHを算出可能であることを示した。今後、スピン軌道トルクを用いたデバイス開発及びスピン軌道材料開発の加速が期待される。

【本文】
東京工業大学工学院電気電子系大学院生 白倉孝典さん、同Pham Nam Hai准教授は、二次高調波ホール抵抗の外部磁場極角分解測定を利用し、磁気熱電効果の影響を排除できるスピン軌道トルクの精密な測定手法の開発に成功した。今後、スピン軌道トルクを用いたデバイス開発及びスピン軌道材料開発の加速が期待される。
スピン軌道トルクはスピンホール効果を用いて、磁性体の磁化反転を行う方法である。スピン軌道トルクは従来の方法よりも低消費電力で磁化を制御可能であるため、次世代不揮発メモリの一種である磁気抵抗メモリやマイクロ波発振器など、様々なスピントロニクスデバイスへの応用が期待されている。
低消費電力なデバイスを開発するためにはスピン軌道材料のスピン軌道トルクを正確に評価することが重要である。スピン軌道トルクの評価によく使用されている二次高調波法は、外部磁場を掃引しながら二次高調波ホール抵抗R_xy^2ωを測り、その磁場強度依存性を評価することでθSHを算出する方法である。二次高調波法は外部磁場の掃引範囲により2種類に大別される。1つ目は外部磁場の掃引範囲を強磁性層の垂直磁気異方性磁場Hkよりも十分小さく設定する低磁場法である。低磁場法は世界で最もよく用いられるが、磁気熱電効果(正常ネルンスト、異常ネルンスト、スピンゼーベック等)の影響を分離できないという問題点があった。2つ目は、外部磁場の掃引範囲をHkよりも十分大きい領域に設定する高磁場法である。高磁場法は磁気熱電効果を分離可能であるが、Hkが大きなサンプルでは適用できないという問題があった。本研究では理論的及び実験的にこの欠点を指摘し、磁気熱電効果によって低磁場法がスピン軌道トルクを大幅に過小または過大評価する可能性があることを明らかにした。さらに、磁気熱電効果を考慮した外部磁場の極角分解測定を提案し、Hkの大きさ、外部磁場の掃引範囲によらず 熱効果を分離し精密にθSHを算出可能であることを示した。本研究により、スピン軌道トルクを用いたデバイス開発及びスピン軌道材料開発の加速が期待される。
本成果は、米国物理学会誌Applied Physics Lettersから出版された。(Appl. Phys. Lett. 119, 222402 (2021))
(沼津高専 大澤友克)

図 (a)電流と平行に磁場を掃引した際の典型的なR_xy^2ωの外部磁場依存性のシミュレーション結果。低磁場法では、外部磁場がHkよりも十分に小さく、R_xy^2ωが線形に変化する領域を利用する。また、高磁場法では、外部磁場がHkよりも大きい領域を利用する。(b), (c), (d), (e) R_xy^2ωの各種寄与を個別にプロットした図。異常ホール効果およびプレーナホール効果はスピン軌道トルクにより生じる。また、正常ネルンスト効果および異常ネルンスト効果は印加電流による熱勾配により生じる。Hk以上の領域では各種寄与の外部磁場依存性が異なる。しかし、Hkよりも小さい低磁場法で用いる領域では、各種寄与が全て線形に変化するため、スピン軌道トルクと磁気熱電効果を分離できない。(f), (g)角度分解法の典型的な測定結果。θHが小さいとき、R_xy^2ωはθHに対して線形に変化する。その傾きを外部磁場の大きさで割った量は、(|H_ext |+H_k )^(-1)の2次多項式で表され、2次項の係数からスピン軌道トルクが、1次項の係数から異常ネルンスト効果が、0次項から正常ネルンスト効果が抽出できる。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

スピントロニクス

前の記事

195.02
磁気物理

次の記事

196.01