193.01
【分野】 磁気物理
【タイトル】
磁性材料におけるスピン変換の機構を解明 -スピン変換効率の大幅な向上により、不揮発性磁気メモリーへの応用に道筋-
【出典】
Yuki Hibino, Tomohiro Taniguchi, Kay Yakushiji, Akio Fukushima, Hitoshi Kubota, and Shinji Yuasa,
“Giant charge-to-spin conversion in ferromagnet via spin-orbit coupling”,
Nature Communications 12, 6254 (2021).
DOI:10.1038/s41467-021-26445-y
産総研プレスリリース 2021年10月29日
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2021/pr20211029/pr20211029.html
【概要】
・磁性材料におけるスピン変換現象の詳細な機構を解明
・界面の磁性材料を制御することにより、スピン変換効率を約3倍に向上させることに成功
・スピン軌道トルク型不揮発性磁気メモリー(SOT-MRAM)への応用に道筋
【本文】
国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 石村 和彦】(以下「産総研」という)新原理コンピューティング研究センター【研究センター長 湯浅 新治】 スピンデバイスチーム 日比野 有岐 研究員、谷口 知大 主任研究員、薬師寺 啓 研究チーム長らは、磁性材料において電流がスピンの流れ(スピン流)に変換される現象(以下、「スピン変換」という:図(左))の機構を解明し、スピン変換効率の大幅な向上を実現した。
産総研ではこれまで、磁性材料のスピン変換を利用することにより、不揮発性磁気メモリー MRAMの一種であるスピン軌道トルク型MRAM(SOT-MRAM)(図(左))における情報書き込み(微小磁石の反転)の高性能化を目指した研究開発を行ってきた。しかし、磁性材料におけるスピン変換の機構が未解明だったため、応用に不可欠な高いスピン変換効率を実現するための指針が確立されていなかった。今回、磁性材料におけるスピン変換を正確に検出できる素子構造を開発し、スピン変換効率を系統的に調べた。その結果、磁性材料の界面および内部(バルク)から生じる2つの異なるスピン変換機構が存在することを明らかにし、さらに図(右)のように界面の磁性材料を制御することによりスピン変換効率を大幅に向上できる方法を発見した。本成果は、超高速動作と省電力性を両立する次世代メモリーSOT-MRAMの実現に向けた道筋をつけ、将来的にモバイル端末やデータセンターの省電力化と高性能化につながると期待される。
(産業技術総合研究所 湯浅 新治)
(左)磁性材料におけるスピン変換およびそれを利用したSOT-MRAMの概念図
(右)界面の磁性材料制御によるスピン変換効率の大幅な向上