187.01
【分野】磁気物理
【タイトル】MnP におけるヘリカル-フェロ転移でのキラリティ保存を測定
【出典】
[1] N. Jiang, Y. Nii, H. Arisawa, E. Saitoh, and Y. Onose, Nat. Commun. 11, 1601 (2020).
[2] N. Jiang, Y. Nii, H. Arisawa, E. Saitoh, and Y. Onose, Phys. Rev. Lett.126, 177205 (2021).
[3] 東北大学 プレスリリース 2021年4月30日
・http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2021/04/press20210430-03-chi.html
【概要】
東北大学の小野瀬教授らは、ヘリカルオーダーを示すMnP におけるT-H 相図を取得し、電気的な測定からキラリティの評価を行った。その結果磁場方向の転移においてはdc電流の印可によってキラリティの符号が制御可能であるが、温度方向の転移ではdc 電流によっては制御されないこと、また、温度方向の転移に対してキラリティが保存されることを示した。
【本文】
東北大学の小野瀬教授らは、ヘリカルオーダーを示すMnPを10um程度のサンプルに加工し、電気抵抗等から温度-磁場相図を取得し、解析を行った。同グループの報告ではMnP は低温・低磁場下においてヘリカルな磁化構造を取っており、温度を上昇させることで強磁性相(FM)に、らせん構造が配列する方向に磁場印可することで磁場方向に磁化のチルトしたconical 状態(CON)を経て、平面的な磁化構造のFAN相に転移する。
報告では、FAN相から温度を保って徐々に磁場を減衰する際にdc 電流を印可することで、dc 電流の印可方向によってCON相のキラリティがコントロール可能な事が報告されている。キラリティは第二高調波抵抗率(2nd harmonic resistivity) によって測定されている。
一方で、温度方向の掃引によるCON-FM転移では印加電流の符号によるキラリティの非対称性は明確ではなく、CON-FM転移によるキラリティのコントロールは有効ではないことが指摘されている。しかしながら、低磁場環境においてCON相からアニールしFM相に転移をさせた後、再度温度を下げてCON相に戻して測定を行うと、アニール前後でキラリティが保存する結果が得られた。すなわちCON-FM転移においてキラリティが保存することが実験的に測定された。
FM相はローレンツ透過型電子顕微鏡の測定からブロッホ磁壁を有する強磁性相であることが得られており、同グループはこの磁壁がキラリティ保存の役割を担っていると考察しており、解析的な計算によっても磁壁によるキラリティの保存が示されている。
(キオクシア 板井翔吾)