141.01

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【分野】磁気物理

【タイトル】コンプトン散乱を用いたペロブスカイト酸化物LaCoO3のスピン状態遷移におけるCo3d電子の対称性の変化の直接観測

【出典】
Journal of Physical Society of Japan, 84, 114706 (2015).
“Direct Evidence of the Symmetry Change of Co-3d Orbitals Associated with the Spin-State Transition in LaCoO3 by X-ray Compton Scattering”
Yoshihiko Kobayashi, Yoshiharu Sakurai, Masayoshi Itou, Keisuke Sato, and Kichizo Asai

【概要】
ペロブスカイト酸化物LaCoO3のCo3+(3d 6)イオンは非磁性の低スピン基底状態から100K付近で磁性励起状態へとスピンクロスオーバー転移を生じる。転移に伴うCo-3d電子軌道状態変化をコンプトン散乱で観測した結果、t2g軌道からeg軌道へ電子が移動すること、スピンクロスオーバー転移に関与する電子軌道状態はO-2pと強く混成した分子軌道であることを明らかにした。

【本文】
ペロブスカイト酸化物LaCoO3はスピンクロスオーバーまたはスピン転移を示す物質として古くから注目されてきた。100K付近で磁化率の極大を示し、なんらかの電子-磁気転移があると考えられている。
 Co3+(3d 6)の場合、結晶場の利得がHund則を満たす利得より上回る場合は基底状態はt2g6eg0,S=0のlow-spin状態をとる。一方、磁気励起状態ではt2g4eg2,S=2のhigh-spin状態またはt2g5eg1,S=1のintermediate-spin状態をとると考えられており、100Kの磁気転移はlow-spinからhigh-spinまたはintermediate-spin転移と考えらている。しかしながら、t2gの波動関数の対称性からegの波動関数の対称性への直接的な観測例はない。
 東京医科大学の小林らのグループは、運動量空間と実空間では波動関数の対称性が同じであることを利用し、コンプトン散乱を用いてペロブスカイト酸化物LaCoO3の10Kと270Kでの運動量空間の波動関数の対称性変化を測定した。その結果、スピン転移に伴うt2g軌道からeg軌道への電子移動の直接的 証拠を見出した。また、観測された電子運動量密度分布の形状から、スピンクロスオーバー転移に関与する電子軌道状態はO-2pと強く混成した分子軌道であるこ とを明らかにした。

(群馬大学 櫻井浩)

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