97.01
- 分野:
- 磁気物理
- タイトル:
- 強磁性ナノワイヤーを用いた直流磁場による交流電圧の発生
- 出典:
- “Magnetic power inverter: AC voltage generation from DC magnetic fields”Jun’ichi Ieda and Sadamichi Maekawa, Appl. Phys. Lett. 101, 252413 (2013).
- 概要:
- 日本原子力研究開発機構先端基礎研究センターの家田淳一研究員と前川禎通センター長は強磁性ナノワイヤーにおける磁壁移動を利用して直流磁場から交流電圧を発生させる方法を理論的に示した。周期的に幅が変化する強磁性ナノワイヤーに直流磁場を印加させると、磁壁の移動の際にそのエネルギーの変化から周期的なスピン起電力が発生することが明らかにされた。このように発生した交流電圧の周波数と大きさは直流磁場とワイヤーの形状によって制御可能であることが1次元モデルを使って示された。
- 本文:
- 最近、交流磁場を印加することで直流電圧を発生させる方法が微細加工された強磁性薄膜を使った実験で実証されたことから、その逆変換である直流磁場から交流電圧への変換(インバータ)の可能性が期待される。一般に強磁性ナノワイヤー中の磁壁が持つエネルギーはワイヤーの幅に依存することから、もし幅が周期的に変化するナノワイヤー中を磁壁が移動した場合、その周期的なポテンシャルの変調に由来した交流のスピン起電力が発生することが予想される。本研究ではこの可能性を示すため強磁性ナノワイヤーに直流磁場を印加した時の磁壁移動について1次元モデル計算を行った。その結果、直流磁場によって磁壁が移動することによって、幅一定のナノワイヤーでも見られる直流電圧成分とともに、ワイヤー幅の変調に由来した交流電圧成分が発生することが分かった。さらに、発生した交流電圧の振幅と周波数が、印可磁場とワイヤー形状にどのように依存するかを調べた。その結果、外部磁場の大きさに対して交流電圧の周波数は変化する一方、振幅は一定であることが分かった。またワイヤー形状に関する変調の周期性(形状変化のピッチ)と大きさ(形状変化の大きさ)はそれぞれ発生する交流電圧の周波数と振幅に影響を与えることが分かった。以上より本研究で示された手法を利用すれば、直流磁場から交流電圧の発生し、かつそのMHz~GHzの周波数を制御することが可能であることが分かった。
(東大物性研 谷内敏之)