63.02
- 分野:
- 磁気物理
- タイトル:
- 磁性イオンをドープした半導体ナノ結晶におけるキャリアを媒介とした磁性制御
- 出典:
- “Charge-controlled magnetism in colloidal doped semiconductor nanocrystals” Stefan T. Ochsenbein, Yong Feng, Kelly M. Whitaker, Ekaterina Badaeva, William K. Liu, Xiaosong Li, and Daniel R. Gamelin, Nature Nanotechnology 4, 681 (2009)
- 概要:
- University of WashingtonのS. T. OchsenbeinらはMnドープZnOナノ結晶の室温における磁性が電荷によって可逆的に制御されることを発見し、光照射でもこれが変化することを示した。
- 本文:
- 磁性イオンドープ型の半導体ナノ構造の磁性を電気的に制御することを目的としてこれまでキャリアを介した磁気秩序に関する研究がなされてきたが、ドーパントとキャリアとの間の相互作用が小さいためにそれらは低温に限られていた。本研究ではMn2+イオンをドープしたZnOナノ結晶において電荷状態による磁性変化が非常に大きいこと、そしてそれが可逆性を持ち室温においても安定であることを示した。
電子常磁性共鳴分光法(EPR)を用いて室温におけるMnドープZnOナノ結晶の伝導帯電子を調べると、紫外線照射によって伝導帯に室温で安定な電子励起が起こっていることが分かり、磁化測定の結果でが磁化率も増加することが明らかになった。さらに紫外線照射と大気暴露を繰り返すことでこの電子励起とその緩和が可逆的に繰り返されることも発見した。
Mnイオンのドープ量依存性を調べると、ドープ量が増えるにつれてEPR強度が減少していることが分かった。これは低温(2 K)での磁化測定での磁化減少の結果と同様に、Mn(II)-Mn(II)間における反強磁性結合形成の影響が大きくなったためと考えられる。以上の結果と理論計算から、今回のような電荷制御による大きな磁気応答は、緩和(初期)状態でのMnイオン間の反強磁性結合と励起状態でのキャリアを媒介とした強磁性結合との競合が結晶内で起こっているためと考えられる。
(東京大学 物性研究所 谷内敏之)