23.03
- 分野:
- 磁気記録
- 出典:
- Phys. Rev. Lett. 96, 097204 (2006)
- タイトル:
- 磁壁ダイナミクスの実時間観測
- 概要:
- ドイツを中心とする共同研究グループは,微細加工したNi-Fe/Al2O3/Co積層構造体における磁化反転過程を実時間観測し,磁壁エネルギーがその伝播に及ぼす影響を明らかにした.
- 本文:
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強磁性体が反転核生成→磁壁伝播という過程を経て磁化反転する際,磁壁エネルギーがどのようにその過程(伝播速度)に影響するか,という問題については長年議論が行われてきた.特に,最近では磁気記録をはじめとする磁気デバイスの小型高速化に伴い,反転速度の定量評価が急速にその重要性を増してきたため,この問題が再燃するようになった.
ベルリン自由大学を中心とする共同研究グループは,Ni-Fe/Al2O3/Co TMR素子におけるNi-Feの磁化過程を取り上げ,この問題に対する実験検討を進めた.彼等が採用した実時間磁化過程観測手法は,XMCD (X-ray Magnetic Circular Dichroism)-PEEM (PhotoElectron Emission Microscopy)とポンプープローブ法を組み合わせたもので,ナノ秒レベルの磁壁ダイナミクスの検出を可能にする.彼等は,マイクロコイルに発生する高速パルス磁場の振幅を変化させ,磁壁の伝播過程をリアルタイムでトレースして,磁壁伝播速度の磁場依存性を決定した.それらの結果より,低磁場領域(この領域では反転磁区サイズが小さい)では,磁壁エネルギーの影響が大きいために,その伝播速度が非常に低くなる.磁場が増加すると伝播速度 ∝ 磁場の比例関係が成立する良く知られた領域が現われ,更に磁場が増しウォーカー臨界磁場に達すると,伝播速度は飽和することが明らかになった.
以上のように,動的磁化過程において,磁壁伝播速度は印加磁場に非常に強く依存することが示された.データ解析上幾つか議論すべき点は残されているものの,今回の結果は,今後の高速磁気デバイスの設計にあたり有益な示唆を与えるものと考えられる.
(東北大 北上 修)