19.01
- 分野:
- 磁気物理
- 出典:
- 金属と絶縁体のミクロな混合状態の実空間画像化に成功
- タイトル:
- 分子関連の国際会議における分子スピントロニクスの最新動向
- 概要:
- 東北大金研の佐々木らは、室温では均一な金属である有機物質が、低温では数十マイクロメータの大きさの複雑な島状構造をした金属と絶縁体に相分離した状態になる様子を実空間画像化することに成功した(Phys.Rev.Lett.92 (2004) 227001)。今回の成果は、島状構造、相分離状態の制御が可能になることで電気的に巨大な変化を生み出すことを示しており、新たな概念の有機エレクトロニクスデバイス開発に結びつくことが期待される。
- 本文:
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有機物質κ -(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Brは、室温では均一な金属であるが、低温では、わずかな圧力や分子の置換により、絶縁体の状態に転移する。この物質は、現在の物性物理学の大きなテーマの1つである、強相関電子系の舞台として精力的な研究が行われている。なかでも、金属・絶縁体転移の境界のごく近傍では、金属状態と絶縁体状態が空間的に分離混合した状態(相分離)の存在が示唆されており、強相関電子系が示す多彩な性質の一つとして、その解明が求められていた。今回は、大型放射光施設(SPring-8)の赤外物性ビームラインBL43IRの高輝度、高指向性赤外光を利用することで、有機物質に特徴的な分子振動の性質を巧みに応用した電子状態の実空間画像化手法の開発を行い、均一な有機物質における金属・絶縁体相転移の極近傍における電子状態相分離の画像化に成功した。この結果、ミクロな大きさの金属と絶縁体領域が複雑な島状構造を形成し、空間的に安定して存在することが明らかになった。この発見は、強相関電子系としての有機物質における金属・絶縁体転移のメカニズム解明に重要な指針を与えるとともに、今回開発した電子状態の実空間画像化の新手法は、他分野への波及効果も期待される。更に、近年進展が著しい有機エレクトロニクス材料開発においても、新しい電子デバイス機構の探索、提案に結びつくことが期待される。
(財団法人 高輝度光科学研究センター 水牧仁一朗)