10.01(Phys. Rev. Lett. より)

分野:
磁気物理
タイトル:
スピン流により磁壁が生成される可能性
概要:
 理化学研究所の柴田らはスピン流によって磁壁が生成される可能性を理論的に予言した(Phys. Rev. Lett. 94, 076601 (2005))。これは、基礎物理として興味深いだけでなく、磁壁を用いた磁気情報の書き込みという観点から応用上非常に重要なものである。
本文:
 
強磁性金属に電流を流すことによりある臨界スピン電流以上においてその一様磁化状態が不安定化すると、最近、海外の幾つかのグループが理論的に指摘していた(Phys. Rev. B 57, R3213 (1998); Phys. Rev. B 69, 174412 (2004))。しかしながら、それらの論文では一様磁化状態の不安定化後の状態については何も言及していなかった。
 最近、理化学研究所の柴田らは、臨界スピン電流以上においては一様磁化状態から磁壁状態へ転移することを理論的に予言し、その論文がPhysical Review Letter 誌に掲載された(Phys. Rev. Lett. 94, 076601 (2005))。論文では、強磁性体中に磁壁が一つあるときに、その磁壁周りのスピン波励起を調べ、臨界スピン流以上においても、磁壁状態はスピン波に対して安定であるということを述べている。一方、これとは別に、スピン流がある時のエネルギーを、一様磁化状態と磁壁状態の場合に調べ、ほぼ臨界スピン流以上において、磁壁状態が一様磁化状態のエネルギーを下回るということも見出した。
 これらの考察から、彼らはスピン流によって磁壁が生成されると結論付けている。この結果は、MRAM, ハードディスクに代表される高密度集積可能なナノスケールオーダーの次世代磁気情報記録素子及び磁気情報記録媒体の作製の可能性を示唆している。最近、注目されている電流駆動磁壁移動(Phys. Rev. Lett. 92, 077205 (2004); 92, 086601 (2004))と組み合わせれば、磁壁を用いた磁気情報の記録、消去、読取り、全てが電流のみを用いて行うことが出来るため、応用上非常に重要なものとなろう。

(理化学研究所 柴田絢也)