8.05:(Phys.Rev.Lett.より)
- (Ga,Mn)As/GaAs/(Ga,Mn)As CPP構造素子において1.7Kで150,000パーセントのMRを観測
- ドイツ・ビュルツブルク大学のL. W. Molenkamp教授グループは、強磁性半導体 (Ga,Mn)Asを用いた (Ga,Mn)As/GaAs/(Ga,Mn)As CPP構造素子において、1.7 Kで 150,000パーセントに達する磁気抵抗変化率(MR)を観測した。このMRは、磁場に対して spin-valve的な振る舞いを示す。また、その大きさは印加バイアスに極めて敏感であり、Vhalfは数mV程度である。Resistance-area product(1.7 K、強磁性配列時)は 10 GΩmm2のオーダーと極めて高く、非磁性GaAs障壁層厚さ2 nmから予想される値より数桁高い。同グループでは観測された巨大MRは通常のCPP磁気抵抗素子で観測される強磁性電極間の強磁性-反強磁性配置時のコンダクタンスの変化に起因する効果ではないと結論しており、TAMR(Tunneling Anisotropic Magnetoresistance)効果と呼んでいる。同効果は、(Ga,Mn)Asのようなキャリアの平均自由行程が極めて短く、かつ、スピ ン軌道相互作用が強い物質で生じる効果と説明している。
以上の実験結果は Physical Review Letter 94, (2005) 027203に掲載された。また、同グループによる TAMR効果に関する関連論文はPhysical Review Letter 93, (2004) 117203にも掲載されている。
なお、既に(Ga,Mn)As/GaAs/(Ga,Mn)Asにおける、いわゆる通常のトンネル磁気抵抗 (TMR)効果は東北大学の大野教授グループから報告されている(Physica E 21, 966 (2004))。彼らによれば、GaAs膜厚2 nm程度ではI-V曲線は線形であり、トンネル伝導を生じるためには不十分であるとしている。ATMR効果も観測されていない。今後、この効果の発生する条件やメカニズムに関する詳細な検証が待たれる。また、今回の報告と酷似した巨大MRが、トンネル素子ではなく(Ga,Mn)As電極を有する2DEG素子において 東京大学の勝本教授グループより報告(2004年日本物理学会)されていることを指摘しておく。
(産総研 齋藤秀和)