2.09
2.09 最近の論文から:J. Appl. Phys、Philos. Mag. Lett.
ナノサイズ領域におけるL10規則相の不安定化(最近の論文から)
Fe-PtやCo-Pt二元系合金は,等量組成近傍で不規則/規則変態を起こし、結晶構造は高温相である面心立方構造 (fcc) から低温相であるCuAu型 (L10) 面心正方構造 (fct) に変化する。fct構造のc軸方向にはFe(Co)とPtが一原子層毎に交互に積層され,この異方的原子配列がc軸方向に約107 J/m3にも達する高い磁気異方性を生み出す.このような高異方性材料を利用すれば,数ナノメートルの微小サイズ領域でも安定に磁化状態を保持することができるため,将来の超高密度磁気メモリ材料としてL10 FePt, CoPtナノ粒子の研究が活発に進められている。しかし、実用化に向けた課題は山積しており、とりわけ深刻な問題のひとつはL10規則相の安定性に及ぼす粒子サイズの影響であるといわれている。
古くから知られているように、微粒子の結晶構造に対してはサイズが著しく影響し、バルク相の不安定化を引き起こしたり、特異な結晶構造を生み出したりする。FePt、CoPtの場合にも,粒子サイズの低下に伴ない不規則/規則変態が抑制され、L10規則相が現われにくくなることが実験的に確認されている。
Takahashiらは、FePtグラニュラー膜の実験から粒径 4 nm以下の粒子は規則状態にないことを見出し、さらにBragg-Williams近似の下で不規則/規則相の自由エネルギーのサイズ依存性を計算して、約1~2 nmを境界にしてそれ以下では規則化が困難であることを示した(J. Appl. Phys 13, 7166 (2003))。一方、FukamiらもMgOマトリクス中に分散したFePd粒子の規則状態を調べ、粒径5 nm以下の粒子が規則化していないことを見出し、Bragg-Williams流の解析計算から臨界サイズが0.8~1.5nmであることを明らかにした(Philos. Mag. Lett. 84, 33 (2004))。
以上のように、L10規則相の安定性に粒子サイズが影響することは確かであり、今後様々な応用に向けL10構造ナノ粒子を検討していく上で大変重要な問題となる。今後、一層の定量化を目指した実験及び理論のリファインがますます重要になるものと思われる。
(東北大 北上 修)