第60回ナノマグネティックス専門研究会報告
日時:2014年10月2日(木) 13:30~16:40
2014年10月3日(金) 9:15~11:50
場所:東京電力(株) 柏崎エネルギーホール
参加者: 10月2日:21名,10月3日:23名
今回の研究会は,ヘッド・スピントロニクスを全体のテーマとして,電子情報通信学会の磁気記録・情報ストレージ (MRIS) 研究会,映像情報メディア学会のマルチメディアストレージ研究会 (MMS),およびIEEE CE East Japanとの4団体の共催で行われた.プログラム構成は基礎研究からデバイス応用まで多岐にわたり,アカデミック領域と企業の両方から講演者を迎えて非常に有意義な議論が交わされた.
- 「磁壁を機能要素とする記憶論理一体型スピン波デバイスの動作シュレーション」
〇今村謙汰,田中輝光,松山公秀 (九大)
磁性細線における磁壁の有無を入力情報に対応させ,磁性体の情報不揮発性とスピン波論理演算機能とを融合した記憶論理一体型デバイスについて報告した.磁壁移動による論理入力値の書き換え方法を提案し,導体電流とスピン電流を併用した選択的磁壁位置制御についてマイクロマグネティクスシミュレーションによる検討結果を述べた.導体電流とスピン電流の強度,パルス幅の最適設定により,磁壁移動から論理演算動作に続く一連の基本動作が可能であることを示した.
- 「反強磁性Cr3Al(001)薄膜の作製と交換バイアスの発現」
〇播本祥太郎,白土 優,中谷亮一 (阪大)
bcc(001)配向反強磁性薄膜による垂直交換バイアスの発現を目指した研究として,X相Cr3Al(001)薄膜の作製ならびに,Au/Co/Cr3Al薄膜における垂直交換バイアスについての結果が紹介された.成長温度を適切に制御することで,X相単層のCr3Al(001)薄膜を形成させることができ,また,Cr3Al(001)層上にAu/Co垂直磁化膜を積層することで,77 Kではあるが約66 Oeの垂直交換バイアスを発現できることが示された.
- 「ホログラムメモリに求められる光学的レンズ設計条件に関する考察」
倉田浩之,牛山善太,山本桂子,森 淳,〇山本 学 (東京理科大)
ホログラムを記録再生する際にその性能を左右するキーディバイスとなる光学系の設計手法を示した.高解像な再生映像と,ホログラム面における完全なフーリエ変換像を両立させるために,フーリエ変換レンズとして,通常の高性 能結像レンズとは異なる性質が必要とされる.本発表ではホログラムメモリにおいて集光レンズに双方向性が要求され,それを満たす設計法として,(1)y=fsinθなる射影関係が必要,(2)像側テレセントリック系が満たされること,(3)順方向で収差がないこと,であることを述べ,実験により検証した結果を報告した.上記射影関係を基本として考え,その他の結像性能等を合理的にcompromiseするレンズ 設計の手法について述べた.
- [招待講演] 「GeTe/Sb2Te3超格子薄膜がもつ鏡面対称高温磁気カー回転」
〇富永淳二 (産総研)
Ge-Sb-Te系カルコゲン化合物は,書き換え可能DVDやBlu-rayの記録材料として広く利用されているが,この系をGeTe層とSb2Te3層の繰り返し構造からなる超格子薄膜にすることで,低電流で電気メモリスイッチ(相変化)するだけでなく,室温で大きな磁気抵抗効果を示すことがすでに報告されている.今回の講演では,この超格子系が150℃以上の温度で0.3°と比較的大きな磁気カー回転を示し,外部磁場のポラリティーに対して鏡面対称なカーループを描くことを紹介した.この現象は超格子構造がもつ時間反転対称性と空間反転対称性の破れによるトポロジカルな特性に起因していることを報告した.
- [招待講演] 「イオンビームアシストスパッタ法によるCo2MnSi薄膜の低温エピタキシャル成長」
〇植田研二,浅野秀文 (名大)
イオンビームアシストスパッタ(IBAS)法を用いた,MgAl2O4基板上及びダイヤモンド半導体上への高品質Co2MnSi薄膜作製について報告を行った.Arビームアシストを用いたIBAS法により,数百°Cの成長温度で両基板上に,磁気特性の良好なエピタキシャルCo2MnSi薄膜を得る事ができた.本手法を用いた低温成長により,基板-薄膜界面での反応,拡散等を抑える事が良質なCo2MnSi薄膜を得るのに必須となる事が明らかとなった.
- 「携帯端末のキャッシュメモリ用途を目指した垂直磁化MTJの開発」
○才田大輔,下村尚治,北川英二,鎌田親義,矢ヶ部 恵,大沢裕一,藤田 忍,伊藤順一(東芝)
スマートフォン等の携帯端末では,プロセッサの消費電力増大が問題となっている.L2以下のキャッシュメモリをSTT-MRAMに置き換えることで消費電力の低減が期待できるが,そのためには100fC以下の電荷量での書き込みが必要とのスペックが示された.MTJのdynamic領域での書き込み特性の解析から,書き込み電流の低減に対して微細化が有効との知見が示された.直径21nmのMTJにおいて,2ns-49uA,1ns-90uAの双方向電流においける繰り返し書き込みの達成が報告された.
- 「高周波アシスト磁気記録ヘッドのSTO発振解析シミュレーション」
○片山拓人,金井 靖(新潟工科大),吉田和悦(工学院大),Simon Greaves,村岡裕明(東北大)
ライトヘッドにspin-torque oscillator(STO )を組み込んだ統合モデルでマイクロマグネティック解析を行い,STOが安定して発振するためのヘッド形状と,高周波記録電流に良好に追従するライトヘッド構造の提案を行った.また,低い注入電流密度でSTO が安定に発振するために,ヘッド磁化がSTOからの作用で揺れないこと,field generating layer (FGL)のダンピング定数を低くし膜内の交換結合を適切に与えることが重要であることを示した.
- 「マイクロ波アシストを利用した瓦記録による高トラック密度化」
○柏木翔太,田中輝光(九大),金井 靖(新潟工科大),松山公秀(九大)
瓦記録にマイクロ波アシストを組み合わせることによる高トラック密度化に関する研究発表を行った.初めに,2層及び3層ECC媒体にマイクロ波アシストを適用した系における信号記録特性について発表し,3層ECC媒体においては熱安定性指標60 @ 350 K(HDD稼働時の想定温度)の保持,及びSNR > 19 dBを同時に満たす媒体条件・マイクロ波周波数条件を示した.次に,この時の条件を用いた瓦記録にマイクロ波アシストを組み合わせた系における信号記録特性について発表し,記録トラック密度1.27 Mtpi (トラックピッチTP = 20 nm),及び面記録密度4 Tbpsiの実現可能性を示した.
- 「高周波アシスト記録ヘッドにおけるスピントルク発振子の発振特性」
○山田健一郎,成田直幸,田口知子,松本拓也,高岸雅幸,鴻井克彦,竹尾昭彦(東芝)
高周波アシスト記録におけるマイクロ波源である,スピントルク発振子の発振特性について,マイクロマグネティックシミュレーション計算の結果を中心に発表がなされた.高周波アシスト記録では,マイクロ波の円偏向の向きと印可磁界の関係が重要であるが,典型的な垂直磁気記録ヘッドの磁極間にスピントルク発振子を形成することで,記録磁界と円偏向マイクロ波が理想的な向きで重畳されることが示された.また,マイクロ波が磁極中広範囲にスピン波を誘起する様子がシミュレーション動画で示され,発振挙動に磁極との相互作用の影響が及ぶ可能性が示された.
- 「熱アシスト磁気記録における媒体の磁気異方性」
○小林 正,礒脇洋介,藤原裕司(三重大)
熱アシスト磁気記録(HAMR)において媒体に必要な磁気異方性Kuの大きさを改良したモデル計算と熱伝導シミュレーションによって求めた.HAMRでは,Kuとともにキュリー温度Tcを指定する必要があるが,KuはTcの関数でもある.記録媒体のKuはバルクのKuまで大きくはできない.そこで,記録媒体のKuに対するバルクのKuの本質的な比Ku/Kbulkを導入した.Ku/Kbulkが大きくなるほど記録媒体の作製は困難になる.Ku/Kbulkの律則は媒体の加熱領域付近の温度勾配である.記録温度を上げると媒体が必要とする温度勾配が大きくなるが,熱伝導温度勾配も大きくなるので,Ku/Kbulkを下げられることがわかった.
- Post deadline presentation.
「新しい超高速時間分解磁気光学イメージングで観る全光磁化スイッチとスピン波伝搬」橋本 佑介 (ラドバウド大)
磁性体中の磁化情報を「フェムト秒の時間分解能」,「マイクロメートルの空間分解能」,そして「メガピクセルのイメージサイズ」で観測する新しい超高速時間分解磁気光学イメージング装置について発表がなされた.低ノイズ高感度CCDカメラ,GPUを用いた並列データ処理と最適化された独自のアルゴリズムにより,従来技術と比べて約4,000倍と飛躍的な実験速度向上を実現している.また,本装置を用いた,フェリ磁性体GdFeCoにおけるサブピコ秒での全光磁化スイッチングの時空間分解測定の結果が報告され,従来よりも高精細な像が得られることが示された.
以上
(TDK 宮内, 東芝 鴻井)