第68回ナノマグネティクス専門研究会報告
- 日 時:
- 2015年11月27日(金) 13:30~16:45
- 場 所:
- 中央大学駿河台記念館
- 共 催:
- IEEE Mag. Soc. Kansai Chapter
- 参加者:
- 15名
今回のナノマグネティックス研究会では、ジャロシンスキー・守谷相互作用(DMI)が磁壁磁場駆動に及ぼす影響についての実験と計算、ネオジム磁石のナノレベルの組織構造から磁化反転挙動の解析、L10型FePt1-xRhx薄膜の格子定数と相転移温度との間の強い相関について講演が行われた。本研究会では発表の途中でも質疑可能なスタイルをとっており、今回も活発な議論を行うことができた。
- 「Soliton-like magnetic domain wall motion induced by the interfacial Dzyaloshinskii–Moriya interaction」
○Kab-Jin Kim、小野輝男(京大)
磁性体/非磁性体の界面では構造対称性の破れからDMIが生じることが報告されている。しかしながら、DMIが磁壁磁場駆動に及ぼす影響についてはまだ実験報告はない。そこで、我々は実時間測定方法を用いてDMIが存在する系で磁壁の磁場駆動実験を行った。その結果、磁壁移動速度はDMIなしの系に比べ、数倍早くなることが分かった。さらにシミュレーションと実験結果を比較検討することで、この高速化がソリトン的な磁壁移動現象からもたらされていることを明らかにした。
- 「界面効果を利用した磁壁移動のシミュレーション解析」
○山田啓介、仲谷栄伸(電通大)
マイクロマグネティクス・シミュレーションを用いてDMIを有する強磁性細線中の磁壁磁場駆動について報告があった。Walker磁場以上の磁壁移動速度は、DMIの値だけではなく線幅によっても変化し、100 nm以上の細線幅を持つ細線においては、磁壁移動速度の上昇が複数回現れることが示された。この現象は、DMIにより磁壁が湾曲し、その湾曲部で垂直ブロッホラインの移動が妨げられて起きることがシミュレーション解析より説明された。
- 「大規模マイクロマグネティックシミュレーションによるネオジム磁石の磁化反転解析」
○古屋篤史1、上原裕二1、藤崎 淳1、清水香壱1、
安宅 正1、田中智大1、大島弘敬2(1富士通、2富士通研)代表的な高性能永久磁石であるネオジム磁石に関して、ナノレベルの組織構造から磁化反転挙動の解析を行った。複数の結晶粒を含むモデルで保磁力の結晶配向度依存性を解析したところ、逆磁区を導入することにより高配向組織において逆磁区の伝搬が容易に起こることを明らかにし、これにより実測に近い保磁力の配向度依存性が解析から得られることを明らかにした。
- 「L10型FePt-X薄膜の磁気相転移とドットパターン作製への応用」
○長谷川 崇、石尾俊二(秋田大)L10型FePt1-xRhx薄膜に対して歪みを導入し、磁気相転移と格子歪みとの相関を調べた。基板はSiO2とMgO(100)の2種類を用いた。SiO2基板では酸化物添加/急速加熱法によるa軸への引張歪み、MgO基板ではエピタキシャル成長に伴うa軸への圧縮歪みの導入が確認された。次いで磁化温度履歴曲線から磁気相転移温度を測定して磁気相図を作成したところ、格子定数cと相転移温度との間には強い相関が認められた。
文責:粟野博之(豊田工大)、五十嵐 万壽和