第66回ナノマグネティックス専門研究会報告
- 日 時:
- 2015年10月22日(木)13:30~16:40
- 2015年10月23日(金)09:15~12:00
- 場 所:
- 大阪大学吹田キャンパス 材料開発・物性記念館
- 共 催:
- 電子情報通信学会 磁気記録・情報ストレージ研究会、映像情報メディア学会 マルチメディアストレージ研究会,IEEE CE East Japan Chapter
- 参加者:
- 34名
今回の研究会は、ヘッド・スピンエレクトロニクスおよび一般をテーマとして、電子情報通信学会 磁気記録・情報ストレージ研究会、映像情報メディア学会 マルチメディアストレージ研究会およびIEEE CE East Japan Chapterとの共催で行われた。基礎的な研究から応用まで広い分野に関する発表があり、企業、大学からの参加者の間で活発な議論が行われた。
- 「マイクロマグネティックスの手法によるアモルファスワイヤの動的磁化過程の解析」
○上原裕二1、古屋篤史1、清水香壱1、藤崎 淳1、
安宅 正1、田中智大1、大島弘敬2(1富士通,2富士通研)磁気センサに用いられているアモルファスワイヤの動的磁化過程について、Landau-Lifshitz-Gilbert(LLG)方程式に基づくマイクロマグネティクス・シミュレーションを行った。Maxwell方程式から渦電流を考慮した電流磁界を導出することにより動的磁化挙動を解析したところ、インピーダンス測定の結果とよく一致した。
- 「巨大磁気抵抗効果を用いたスピン流アシスト効果の検出」
高橋真央、○能崎幸雄(慶大)
強磁性体/非磁性体/強磁性体の擬スピンバルブ3層膜にマイクロ波を印加し、保磁力の周波数依存性を調べた。ハード磁性体に強磁性共鳴を誘引するマイクロ波を印加したところ、スピンポンピング由来のスピン流によりソフト磁性体の保磁力が低下することを明らかにした。
- 「ホイスラー合金を用いた面直通電型巨大磁気抵抗素子」
○窪田崇秀、伊奈幸佑、温 振超、高梨弘毅(東北大)Co2Fe0.4Mn0.6Si磁性層およびAg-Mg合金からなるスペーサ層を有するサブミクロンオーダーのサイズの面直通電型巨大磁気抵抗効果素子を作製し、特性を評価した。Ag-Mg合金は、Mgが12 – 25 at.%の組成においてL12規則構造を有し、Agと比較して高い電気抵抗率を有する。本素子は、通常のAgスペーサ層を有する素子と比較して、高いRA値を示す。一方、Agスペーサ層を有する素子と比較して、磁気抵抗変化率は低下しないため、高出力化に有利であることが示された。
- 「Fe4N擬単結晶薄膜の異方性磁気抵抗効果と異常ホール効果」(招待講演)
○角田匡清1、鹿原和樹1、古門聡士2(東北大1,静岡大2)逆ペロブスカイト型遷移金属窒化物Fe4Nは、FeとNの軌道混成のため、フェルミ準位での多数スピン電子の状態密度が小さくなることから、特異な電気伝導特性を有し、高スピン分極を示す材料として注目されている。講演者等は、Fe4N擬単結晶薄膜の50 K以下の温度での異方性磁気抵抗効果、異常ホール効果に現れる異常について、散乱理論に基づいた解析を行い、それらの異常の起源について議論した。
- 「ホログラフィック光ストレージ技術の現状と今後の展望」(招待講演)
○的場 修(神戸大)次世代の光メモリ技術として期待されているホログラフィック光ストレージ技術の現状と今後の展望が紹介された。特に、スペックルシフト多重記録を用いた反射型ホログラフィックメモリにおけるホログラム多重度を向上する技術についての報告があった。
- 「磁気力顕微鏡法による3次元的に配置された磁性ビットへの情報入出力手法の提案」
○岩城圭亮、若狭凌生、野村 光、中谷亮一(阪大)磁性量子セルラ・オートマタは将来の超低消費電力演算素子として期待されている。本報告では、基礎的な研究として、2次元配置された素子から3次元素子への拡張に関する検討結果について報告があった。今回は、磁気力顕微鏡を用いて素子に情報を入力し、演算における動作マージンについての報告があった。
- 「交換結合膜におけるスピン波動特性の計算機シミュレーション」
○牙 暁瑞、今村謙汰、田中輝光、松山公秀(九大)hard/soft交換結合膜における交換スプリング効果を利用したマイクロ磁気デバイスの高周波領域での動作に関する研究が盛んに行われている。この研究では、交換結合膜の層構造を変化させることにより、スピン波共鳴周波数を任意に設定できることをマイクロマグネティクスシミュレーションで示した。面内交換結合膜においては、低い異方性磁界のため、十数GHz程度の動作周波数に制限されるが、垂直交換結合膜では高周波化が可能なことを見出した。
- 「マイクロ波アシスト磁化反転特性と磁化の熱安定性の数値計算」
○田中輝光1、能崎幸雄2、松山公秀1(1九大,2慶大)Co-Pt系グラニュラー単層媒体を例に、実験による測定とマイクロマグネティクス計算におけるマイクロ波アシスト磁化反転特性をSharrockの式を用いて解析し、比較した。その結果、磁気余効によるスイッチング磁界の低下が、マイクロ波アシストによるスイッチング磁界の低下よりも大きい量であるため、実測では低周波領域でマイクロ波アシストの効果が見られないことがわかった。
- 「光ディスク判別方法の開発」
○中原宏勲、竹下伸夫(三菱電機)ブルーレイディスク装置は、DVD、CDを再生できる、再生互換性を有している。このため、ブルーレイディスク装置は挿入されたディスクの種類をなるべく早く判別することが必要となる。本研究では、LEDからの光をディスクに照射し、ディスク挿入の際の動きによって、ディスクの情報記録層からの回折光の光量が変化することを利用し、その光量変化の様子からディスクの種類を判別する技術を開発した。
- 「スピン偏極走査電子顕微鏡による磁気デバイス解析」(招待講演)
○孝橋照生(日立)スピン偏極走査電子顕微鏡の原理と構造を詳細に説明し、いくつかの測定例が紹介された。測定例としては、Co単結晶、ハードディスク装置の記録媒体、などの測定結果が主に紹介され、特に、記録媒体においては、5 nmサイズの磁区が観測されていることが示された。また、スピン検出器の感度向上の必要性が求められているため、それに対して行っているスピン検出器の改良の方向性が示された。さらに、試料の温度を変化させながら測定するなどの、実用材料の開発で求められる新たな測定技術への対応などの例も示された。
文責:能崎幸雄(慶大)、中谷亮一(阪大)