第41回 ナノマグネティクス専門研究会報告
- 日 時:
- 2011年6月3日(金)13:30~16:45
- 場 所:
- 中央大学駿河台記念館
- 参加者:
- 35名
今回の専門研究会では、将来の磁気ストレージ、磁気デバイスへの応用を目指した基礎的な材料研究から、磁化ダイナミクスの計測技術、磁性コンピュータの基礎技術などナノマグネティクスの分野における最新の研究成果が報告された。4件の講演共に興味深く、活発な討論を行うことができた。
- 「3d強磁性遷移金属薄膜のエピタキシャル成長と構造解析」
○大竹 充、二本正昭(中大)
酸化物単結晶基板上に3d強磁性遷移金属薄膜をエピタキシャル成長させた場合の磁性膜の構造と磁気特性について報告された。基板材料、基板結晶方位、および膜形成時の基板温度が磁性薄膜の構造に及ぼす効果について系統的な実験結果が示された。MgOなどの酸化物結晶基板上における磁性薄膜のエピタキシャル成長では、磁性薄膜の基板直上の部分にミスフィット転位が導入されることにより十数%に及ぶ格子ミスマッチが緩和され、極めて低歪の磁性膜が得られることなどが報告された。 - 「磁性論理演算素子における局所演算実行手法」
○野村 光,今永之弘,平塚悠輔,三浦創一郎,豊木研太郎,中谷亮一(阪大)
磁性論理演算素子(Magnetic logic gate, MLG)は、複数の微小な磁性ドットから構成され、磁性ドット間に働く静磁気相互作用を用いて情報を伝搬・演算する新規素子である。これまでに同グループでは、単一のMLGを用いNAND/NOR演算の実証を行ってきた。MLGの実用化を考えた場合、複数のMLGを接続させた高級回路の作製が必須である。しかし、従来のMLGはゲート同士の接続に適した構造ではなかった。今回、複数の新構造MLGからなる二次元配列構造の提案ならびに、磁気力顕微鏡探針からの漏洩磁場を利用した局所演算実行手法が提案された。本手法により得られた結果は、従来のMRAM素子で利用されている磁場による局所情報書き込み手法をMLG配列へ適用する際の指針となると考えられる。 - 「積層膜および人工超格子構造に期待する室温巨大電気磁気効果」
○岩田展幸、野呂田健人、土屋善人、黒田卓司、渡部雄太、山本 寛(日大)
室温において、電界印加によって磁化を大きく変化させる材料および強誘電性強磁性マルチフェロイック材料は見つかっていない。そこで、発表者等は、強磁性金属/r面配向Cr2O3積層膜においては界面での磁気的交換相互作用で、[REFeO3/AFeO3](RE=La,Bi A=Ca,Sr)人工超格子においては界面を介したキャリア移動で上記目的を達成しようと考えた。今回の報告では、まず、その原理が説明された。また、r面配向CrO3薄膜、REFeO3、AFeO3単層膜、人工超格子をDC-RFマグネトロンスパッタリング法、パルスレーザ蒸着法で作製し、その結晶性、表面・界面平坦性をRHEED、走査型プローブ顕微鏡、X線回折、逆格子マッピングにより評価した結果が報告された。 - 「光ポンプアンドプローブ法を用いた磁化歳差運動の緩和過程に関する研究とその応用」
○橋本佑介1、青島賢一1、船橋信彦1、久我 淳1、清水直樹1、宗片比呂夫2(1NHK、2東工大)
強磁性半導体GaMnAsにおける光誘起歳差運動の発生起因に関する研究が報告された。光ポンプ&プローブ法を用いた磁化歳差運動の直接観測およびLLG方程式を用いた数値解析結果から、光照射によるキャリア濃度の変化が光誘起歳差運動の起源であることが示された。また、本研究を通して開発された測定手法をフェリ磁性体GdFeの磁気特性評価へ応用し、スピントランスファートルク電流が簡便に見積もられることが示された。得られた結果は、磁化反転電流の低減など、スピントロニクスデバイスの特性改善への指針を示すことが期待される。
文責:中谷亮一(阪大),塚本 新(日大)