第225回研究会/ 第51回強磁場応用専門研究会 /
第3回バイオマグネティックス専門研究会
超伝導応用最前線
- 日 時:
- 2019年11月15日(金)13:00~17:00
- 場 所:
- 中央大学駿河台記念館
- 参加者:
- 11名
医療分野でのMRIや2027年に開業するリニア中央新幹線に代表されるように超伝導を利用した機器が世に出始めてきている.そこで実用化が検討されている超伝導技術をエレクトロニクス,環境,交通,医療分野からピックアップし,超伝導応用に関わる最前線の研究内容を講演いただいた.
- 「超伝導応用の新展開:マヨラナフェルミオン・トポロジカル量子計算」
○笹川崇男(東工大)
はじめに,超伝導物質の変遷を辿りながら,現在展開されている超伝導トポロジカル量子計算に向けた物質探索に至る経緯を紹介いただいた.続いて単結晶育成技術という得意分野を生かし,理論的な予測と実験的検証からマヨラナ準粒子の存在を明らかにされた経緯を紹介いただいた.また,量子コンピュータの動作原理から最近の開発状況についての紹介があり,実用的な量子コンピュータの実現に向けてのブレークスルーがトポロジカル超伝導体の発見に委ねられている現状を踏まえると,モノつくり日本の底力の見せ所だと述べられていたのが印象的であった.
- 「磁気分離による水処理技術のブレークスルーへの挑戦~永久磁石から超電導磁石への展開の可能性~」
○酒井保蔵(宇都宮大)
はじめに,日常生活でふんだんに飲料水が使用される日本は水資源に恵まれているように思えるが,実際には水資源に恵まれているのではなく,下水処理による水のリサイクルが高度に発達している結果であることを紹介いただいた.水資源のリサイクルは,水の汚染物質である有機物を汚泥に転換するプロセスであり,膨大な汚泥は産業廃棄物として処理され,膨大なエネルギーを消費している.一方,磁気分離による生物学的水処理法では生物学的水処理の条件が従来とは異なるため汚泥の排出がゼロとなり,環境にやさしい水処理法であることが紹介された.現在,実証プラントが動作中である.
- 「超電導き電システムの開発と列車走行実験」
○富田 優(鉄道総研)
はじめに,現在の都市部での電化方式についての説明があった.従来の交流送電から直流送電へ転換してきている結果,直流送電では変電所間距離が延びると電圧降下の問題があり,走行の安定性を高める技術として超電導による送電が期待されている.また,ブレーキで生じた回生電力の有効利用や変電所間の負荷平準化など,超電導ケーブルをき電線に導入する利点は多い.講演では鉄道応用に向けた高温超電導線材の開発から超電導き電ケーブルの試作,実証試験について動画を交えて説明いただいた.営業路線での試験にも成功しており,実用化も近いとの印象である.
- 「高温超伝導SQUIDを用いた高感度磁気計測装置とその応用」
○塚田啓二(岡山大)
はじめに,生体での電位測定と磁気測定の原理を説明いただき,磁気測定の有用性に触れられた.微弱な磁気検出には高感度な検出器が必要なことに加えて,取り扱いが容易な液体窒素温度で作動する高温超伝導SQUID(HTS-SQUID)を用いて開発された心磁計について紹介いただいた.続いて,HTS-SQUIDを用いたハイブリッド型磁化率測定装置を紹介いただいた.この装置はM-H特性,AC交流磁化率測定,緩和時間測定が可能となっている.この装置を用いた水分量測定や磁気免疫分析法について紹介された。HTS-SQUIDを利用することで従来法では測定が困難な対象物の特徴が調べられるようになってきている.
- 「SQUID脊磁計開発~実用化に向けた取り組み」
○足立善昭(金沢工大)
はじめに,脊髄・脊椎変性疾患患者の診断についての現状について説明いただいた.従来の神経学的所見や画像診断だけでは正確な診断が難しいことに加えて,正確な情報を得るためには侵襲性の高い測定が必要であったことから,SQUIDを用いて脊髄誘発磁場を測定する脊磁計を開発されたそうである.脊磁計から得られる脊髄誘発磁場から算出された電流分布は従来の侵襲性の高い測定から得られる結果と良い一致を示し,脊磁計の有用性を確認されていた.センサ部や冷却系等に様々な改良を加えた結果,現在では頸椎部のみならず腰椎部にも適用可能となり,さらに腕部や手根部など抹消神経の疾患診断にも応用され始めていて,早期に製品化を目指しているそうである.
文責:山登正文(首都大)