第251回研究会報告
「機能性磁気デバイスのための磁性薄膜の成膜技術」
日時:2024 年11 月18 日(月)13:00~17:20
場所:ワイム貸会議室御茶ノ水およびオンライン(Zoom)
参加者:48名(現地:22名,オンライン:26名)
近年,自動運転,ロボティクスの普及により磁気センサの需要が高まり,また,MRAMの基礎研究段階から実用化への移行が行われる中で,磁気センサや磁気メモリなどの機能性磁気デバイスで用いる磁性薄膜の成膜技術が注目を集めている.研究会では,磁性薄膜の成膜技術に関連する研究分野の6 名の研究者の方々に講演いただいた.講演では分子線エピタキシー法やめっき法,スパッタリング法を使って磁性薄膜を製造する新しい取り組みの現状や将来展望などが示され,大変興味深いものであった.聴講者からの高い関心もうかがわれ,活発な質疑応答がなされた.
- 「分子線エピタキシー法を用いた磁性ホイスラー合金薄膜の低温合成とデバイス応用」
○山田晋也(阪大)分子線エピタキシー法による半導体上への強磁性ホイスラー合金薄膜の低温(基板加熱なし)成膜法が紹介された.Ge(111)面上に低温成膜したホイスラー合金は相互拡散がなく高品質な薄膜であり,ホイスラー合金からGeへの高い効率のスピン注入が室温で実現できることが説明された.また,「強磁性/Ge/強磁性」構造の縦型素子では室温で高い磁気抵抗比を示すことが説明された.また,GaN上に数原子層のCo層を挿入することでホイスラー合金がエピタキシャル成長でき,ホイスラー合金からGaNに注入される電子のスピン偏極率が室温で0.24になることが報告された.
- 「3次元磁気メモリのためのめっき技術」
○高村陽太(Science Tokyo)
3次元構造のスピントロニクス磁気メモリ応用に向けたパルス電析法によるCoPt極薄膜の作製法が紹介された.PtイオンとCoイオンを含む電析溶液中でPt上にパルスめっき成膜を行うことでCoPt薄膜がhcp[0001]方向に成長し,直流めっき法に比べて表面平坦性が向上することが説明された.また,CoPt薄膜は膜厚方向の磁化測定の矩形比がほぼ1の垂直磁化膜になることが説明された.CoPtの飽和磁化や垂直磁気異方性エネルギーは電析中の電位を変えることで制御できることが示された.また,3次元構造の素子作製に向けたピラー構造のCoPtの作製方法が報告された.
- 「磁気センサ及び電子デバイス用磁性めっき技術」
○齊木教行(東設)
電子デバイスで用いる様々な組成や膜厚の磁性薄膜を量産するめっき技術が紹介された.磁場中めっき成膜により高品質の磁気センサ用の磁性膜が作製できることが紹介された.成膜中の消費量に応じてめっき液の添加剤を追加するなどの精密なめっき液の管理を行うことで,3元系以上の合金のめっき製膜が可能であることや,インバー合金のような精密な組成制御が必要な膜をめっき成膜できることが説明された.また,300 μmといった厚いNi膜でも,光沢を持ち応力が少ない膜を作製できることが報告された.
- 「コンビナトリアル成膜技術を用いた新規スピントロニクス材料の開発と物性評価」
○遠山 諒,桜庭裕弥(NIMS)
コンビナトリアルスパッタ成膜による組成傾斜膜の作製手法が紹介された.リニア移動マスクと基板回転機構,カソードシャッターを組み合わせることで同一基板上に異なる組成の薄膜を同時に作製できることが紹介された.この手法を用いて,高いスピン分極率を示すホイスラー合金の組成を高スループットで最適化する手法が紹介された.また,異常ホール効果が増大する重金属の添加物の最適化手法が紹介された.コンビナトリアル成膜技術と機械学習を組み合わせることで自動的・自律的に材料探索を行うシステムの構築が期待できることが示された.
- 「磁気デバイス向け磁性多層膜成膜技術および製造装置」
○入澤寿和(キヤノンアネルバ)
スパッタによる磁気デバイス用の多層膜の量産技術が紹介された.HDDの磁気ディスクは高スループットで成膜することが重要であり,今後の熱アシスト磁気記録向けディスクでは,MgO層成膜の高スループット化が課題であることが説明された.磁気ヘッドにおいては4原子層という薄いMgO膜を如何に高品質で成膜することが出来るかが課題であり,現在DCスパッタを用いたMgO成膜により2.4 Tbit/in2を達成できるほどの性能が得られていることが説明された.STT-MRAMにおいては現在30層にもなる積層数からなるMTJ膜を成膜していることが説明され,スループット向上,パーティクル等に起因する歩留まり改善,コスト改善等に課題があることが示された.
- 「低電流制御可能な磁性ガーネットの大面積成膜」
○山下尚人(九大)
On-axisスパッタリングによるフェリ磁性ガーネットの大面積の基板への作製方法が紹介された.直径50 mmのターゲットを用いたOn-axisスパッタリングでガドリニウム・ガリウム・ガーネット基板上に成膜したツリウム鉄ガーネット(TmIG)膜は,結晶性や垂直磁気異方性が直径80 mmの基板でも均一な薄膜が作製可能であることが説明された.On-axisスパッタリングで作製したTmIG膜はPLDなどで作製した膜と同程度の高品質な膜であり,電流誘起磁化反転などのスピントロニクスデバイス作製への応用が期待できることが示された.