第246回研究会報告
「モノづくり分野を支える磁気関連技術の新展開」
日時:2023年1月17日(水) 13:00~16:50
場所: ハイブリッド開催(現地開催およびオンライン開催)
現地会場:ワイムお茶の水
参加者:22名(現地7名 オンライン(Zoom)15名)
近年,持続可能な社会の実現に向けた取り組みが社会的に注目されている.これに関連して,日本では産業分野において,「モノづくり」という言葉が使われてきた.これは単に物を作りあげるだけでなく,その前後に付加価値を加える行為も含まれる.「モノづくり」を進めることで,生産性向上,省エネ化,高耐久化などが促進され,持続可能な社会に大きく貢献している.本研究会では,「モノづくり」を支える最先端の磁気に関する研究について7名の方々に講演いただいた.ハード(材料,機械),ソフト(理論,解析,設計)に対応した研究成果に関して参加者・講師を交えて活発な議論がなされた.
- 「磁性複合材料(圧粉磁心)の開発とその応用」
○田島 伸(豊田中研)圧粉磁心の開発と実用化について紹介された.圧粉磁心は,磁気特性を低下させても,他のメリットによって工業的に価値がある磁性材料として利用されており,「使い勝手が良い特性」を実現しているという点で,実用材料の本質を具現していることが示された.
- 「非接触磁気ギヤ・磁気ギヤード機の高性能化」
○中村健二(東北大)
非接触磁気ギヤ・磁気ギヤード機の高性能化の事例として,最高速度80,000 rpmの磁束変調型磁気ギヤの開発事例と,最大トルク500 N·mを目標に設計した磁気ギヤードモータの開発事例について紹介された.
- 「特徴づけられた磁界を用いる磁気式アブソリュートエンコーダの研究」
○橋本秀紀(中央大)
小型で高精度な磁気式エンコーダの実現に関する研究が紹介された.偏心構造を活用した手法と,磁束密度の異なる磁石を活用する手法が磁気式エンコードの実現に向けた新たな手法として紹介された.また,永久磁石同期モータの新構造に関する研究も紹介された.
- 「渦電流磁気指紋法による鉄鋼材料の残留応力・残留ひずみ評価」
○内一哲哉(東北大)
低周波大振幅磁場と高周波微小磁場を重ね合わせて磁気応答を計測する渦電流磁気指紋法の原理と適用事例について紹介された.本手法は鉄鋼材料におけるフェライト相の残留応力に敏感であり,表面加工層における残留応力や,材料内の相間応力を測定することが可能であることが示された.
- 「拡張型ランダウ自由エネルギーモデルを用いた磁区構造の自動的な解釈」
○小嗣真人(東京理科大)
情報科学とトポロジーの融合によって設計された「拡張型ランダウ自由エネルギーモデル」について紹介された.本モデルは,ミクロな磁区構造とマクロな磁化反転現象とで階層を超えて双方向接続でき,起源となる磁気的相互作用の因果解析を可能とすることが示された.
- 「磁気デバイスのモデリング・最適化・AIによる設計」
○五十嵐 一(北大)
圧粉磁芯やリッツ線のように微細構造を持つ対象を均質材料に置き換える均質化法,自由に物体構造を変化させて最適解を探索するトポロジー最適化,およびモンテカルロ木探索を用いた統合設計が紹介された.
- 「熱力学モデルによる磁気ヒステリシスモデル」
○池田文昭(フォトン)
磁性体の熱力学的な考察から自由エネルギーというスカラー量によりベクトルどうしの関係である磁気特性を見通しよく表現できることが紹介された.これよりヒステリシスは摩擦に似た現象としてモデル化できることが示された.