第240回研究会/第95回ナノマグネティックス専門研究会報告

「磁気物性に関する計算科学の最前線」

日時:2022年12月12日(月)13:00~17:20
場所:オンライン開催(Zoom)
参加者:28名

 近年,第一原理計算やマイクロマグネティックス,機械学習などの計算科学の手法を材料開発や実験の考察に取り入れる取り組みが活発化している.本研究会は,磁気物性と計算科学をキーワードとし、最前線でご活躍されている講師による6件の講演で構成された.いずれの講演も,磁気物性と計算科学が密接に関連する最新の研究動向を俯瞰できる内容であった.

  1. 「トンネル磁気抵抗効果の温度依存性に対する新たな物理起源の提案:界面s-d交換相互作用の重要性について」
    ○増田啓介(物材機構)

     Fe/MgO/Fe強磁性トンネル接合におけるトンネル磁気抵抗(TMR)比は,室温で400%,低温で1000%と大きな温度依存性を示す.本講演では,強束縛モデルを用いてTMR比の温度依存性を理論的に計算することで,その大きな温度依存性が,d電子スピン揺らぎがs-d交換相互作用を介してs電子に伝播する描像で説明されること,またその中でも界面Feにおけるs-d交換相互作用が主たる寄与を与えることが示された.

  2. 「トポロジカル絶縁体を活用した磁化ダイナミクスの電圧制御とその応用」
    ○千葉貴裕(福島高専)

     磁気物性の電圧制御に関する最近の研究動向とその次世代デバイスへの応用を背景として,3次元トポロジカル絶縁体を活用した磁気異方性と磁化ダンピングの電圧制御の理論,およびそれらの磁化反転への応用について解説された.

  3. 「磁化過程解析とデータサイエンスを融合する拡張型ランダウ理論の創出」
    ○三俣千春(東京理科大)

     磁性体の磁化過程と自由エネルギーの関係を,保磁力を表現するために広く用いられるKronmüller式を例にとって説明された.この議論をより一般的に拡張した拡張型ランダウ理論では,磁区構造観察のデータを機械学習の秩序変数として利用することで、データ空間におけるエネルギー地形の解析方法を構築できることが報告された.

  4. 「アモルファスワイヤを用いた磁気センサのLLG解析」
    ○赤城文子,金子陽美(工学院大)

     マイクロマグネティクスシミュレーションに渦電流を考慮したマルチフィジックスシミュレーションを用い,零磁歪CoFeBSiアモルファスワイヤを用いた磁気センサの出力電圧を解析した結果,出力電圧がCoFeBSiのダンピング定数に依存すること,ワイヤに流すパルス電流の周波数をGHz帯まで上げると出力電圧が増大することが示された.また,パルス電流印可時のワイヤ内における磁化挙動の解析結果についても示された.

  5. 「磁性体計算における富士通の取組み」
    ○田中智大(富士通)

     富士通で開発されたマイクロマグネティクスシミュレーターのいくつかの適用例が紹介された.ネオジム磁石の保磁力解析では,表面に異方性磁場が低下した領域があると,反磁場によって逆磁区が生成され,磁化反転核となることで保磁力が大きく低下することが示された.また,磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)の熱安定性や書き込み性能の解析結果が報告された.

  6. 「逆問題解析に基づく磁気ナノ粒子のイメージング」
    ○笹山瑛由(九大)

     逆問題解析に基づく磁気ナノ粒子のイメージングについて解説された.逆問題解析の手法として,非負最小二乗(NNLS)法,ミニマムバリアンス空間フィルタ(MV-SF),sLORETA(standardized low-resolution electromagnetic tomography)が紹介された.sLORETAを事前に適用して解析対象範囲を限定し,その後,NNLS法を適用するという組み合わせ手法により,磁気ナノ粒子の位置と量がアーティファクトなく高空間分解能に推定できることが示された.

文責:五十嵐万壽和,岡林 潤(東大),菊池伸明(東北大),
田倉哲也(東北工大),長谷川 崇(秋田大),吉田 敬(九大)