第236回研究会/第69回化合物新磁性材料専門研究会

テーマ:
「新しい磁性研究のための量子ビームと計算科学の連携利用」
日 時:
2022年2月9日(水)13:00~18:00
場 所:
オンライン開催(Zoom)
参加者:
22名

放射光,中性子,レーザーなどの量子ビームを用いた磁性体研究は最近大きな発展を遂げており,時空間分解測定を行う研究がほとんどとなってきている.一方で,得られた多彩なイメージングデータを精密に解析し,その背後にある物理的に重要な現象を抜き出すことは容易でなく,理論研究との融合が求められている.このような背景の下,機械学習やデータ駆動科学等の新奇な手法が大きく発展している.本研究会ではこの新しい研究展開を踏まえ,今後の量子ビームと理論研究との新たな連携について議論を行い,連携利用や研究交流を促進した.

    1. 「X線とレーザーを組み合わせた磁性体のダイナミクスの観測」
      ○和達大樹(兵県大)

      X線とレーザーを組み合わせた磁性体のダイナミクスの観測について,X線自由電子レーザーを用いた元素分解測定,実験室レーザーを用いた磁区の空間と時間分解測定についての研究成果を示し,高次高調波を用いた両研究の統合への展望が紹介された.

    2. 「顕微磁気分光計測への能動学習の応用」
      ○上野哲朗(量研機構)

      走査型透過X線顕微鏡による顕微磁気分光計測では,磁区構造とX線磁気円二色性スペクトルを同時に得ることができるが,測定に長時間を要するという問題がある.この問題に対し機械学習の一種である能動学習を用いて顕微磁気分光計測を効率化する方法が紹介された.

    3. 「時分割中性子小角散乱と中性子スピンエコー法を用いたトポロジカル磁気秩序の研究」
      ○中島多朗(東大)

      磁気スキルミオン研究例を元に,時分割中性子散乱や中性子共鳴スピンエコー法,偏極中性子小角散乱による研究成果が紹介された.また,磁性研究一般に対してこれらの手法を発展的に用いる計画に関しても紹介された.

    4. 「薄膜形成技術に向けた磁気光学顕微鏡」
      ○杉本聡志(物材機構)

      本講演では,初歩的なデータ駆動型磁性研究のひとつとして,半自動化された磁気光学イメージングを利用した薄膜スキルミオンの安定化研究について紹介された.この手法を用いることで効率的な安定化条件の発見が可能となり,新たに非平衡相関現象の観察にも成功したことも紹介された.

    5. 「強磁性薄膜における磁区パターンの現象論的模型と数値シミュレーション」
      ○工藤和恵(お茶大)

      強磁性薄膜上の磁区パターンを再現する現象論的模型が紹介された.短距離の強磁性相互作用と長距離の双極子相互作用のバランスで磁区パターンの幅が決まることについて,模型の解釈と数値シミュレーション結果を用いて解説された.

    6. 「磁区パターン形成過程の位相的データ解析」
      ○本武陽一(統数研)

      位相的データ解析を強磁性体に現れる磁区構造の形成過程の分析に適用した事例が紹介された.具体的には,非均一・非周期的な磁区構造を,パーシステントホモロジー群に基づき機械学習を用いて分析した研究が紹介された.

    7. 「磁石材料探索に向けた計算科学的アプローチ」
      ○福島孝治(東大)

      磁石材料探索の理論的なアプローチの一つに結晶構造予測がある.小さいサイズのセルに対する第一原理計算の結果をデータとして,クラスター展開モデルを構築し,大きなサイズのモンテカルロ計算により新規構造を探索する方法を紹介頂き,データ科学の観点からの立場が議論された.

    8. 「パネルディスカッション」
      ○和達大樹(兵県大)

      量子ビームを主とした磁性体の計測手法や研究手法への機械学習の導入のテーマに関して講演者から意見を頂き,今後の研究発展に関して参加者間で議論を行った.磁性体のイメージング測定はもちろん, 今後の新しい磁性体探索などにも機械学習が有効である点等が議論され, 本分野の今後の発展を強く感じさせるものとなった.

文責:和達大樹(兵庫大),出村郷志(日大)