第233回研究会 / 第93回ナノマグネティックス専門研究会

テーマ:
「磁気記録技術の最近の研究動向」
日 時:
2021年10月26日(火)13:00~17:20
場 所:
オンライン開催(Webex)
参加者:
44名

パソコンやスマートフォンなどの多くの機器がネットワークに接続されデータ量が飛躍的に増大しているなかで,大容量データを格納する磁気記録技術の重要性が増している.次世代ストレージシステムでは種々の要素技術が高度に組み合わされることから,それらの技術革新が今後のIoT,AI時代を支える上で特に重要となる.本研究会は,磁気記録技術の新しい研究開発を行っている6件の講演で構成された.いずれの講演も磁気記録に関する最新の研究動向を俯瞰できる内容であり,特に開発の最前線に立つ企業からの大変貴重な内容が多く含まれた.

    1. 「ニューノーマル社会のストレージ技術展望」
      ○田中陽一郎(東北大)

      ニューノーマル社会では人との密な接触に頼り過ぎない構造,つまり情報通信技術(ICT)を駆使したコミュニケーションとデータシェア活用が必須となること,また今後のデータ連携基盤を構築する上では大容量HDDをコアとしたエッジ分散型のデーセンターネットワークが重要になることが解説された.

    2. 「コロナ社会と世界経済,ストレージ・HDDの業界動向」
      ○堀内義章(HORI Technology Office)

      今後1~2年間はコロナウィルス感染症を意識する必要があること,その中で様々な業務のデジタル化とオンライン化が急速に進みHDDの需要が増え,今後はデータセンターを中心にSSD,HDDおよび磁気テープ,特にアーカイブ用の大容量HDDと磁気テープの需要がセットで伸びる予想が示された.

    3. 「HAMRにおける隣接トラック干渉」
      ○伊藤直人,野崎秀也,山下正人,Daniel Wolf,池田政臣,霜越正義
      (Western Digital)

      熱アシスト磁気記録(HAMR)ドライブには2種類の隣接トラック干渉(ATI)があること,また高い異方性磁場をもつ媒体の使用によってATIが軽減できる有効性がマイクロマグネティックシミュレーションにもとづき示された.

    4. 「高周波アシスト磁気記録技術の開発」
      ○成田直幸1,高岸雅幸1,小泉 岳2,竹尾昭彦2,前田知幸1
      (東芝1,東芝デバイス&ストレージ2

      マイクロ波アシスト磁気記録(MAMR)技術のひとつである磁束制御型(FC)-MAMR技術について,その素子構造,動作,記録特性の改善効果等について解説がなされた.FC-MAMR 技術は,記録ヘッドとの特別な相互作用を考慮した媒体設計を必要とするマイクロ波アシスト磁化反転型(MAS)-MAMR 技術(MAS-MAMRは一般的なMAMRと同じ技術であるが,ここではFC-MAMRと区別するためにあえてMAS-MAMRと書いている)に対して,いかなる媒体にでも適用できる利点があることが示された.さらに2021 年2 月にFC-MAMR技術を用いた18 TBのHDDのサンプル出荷を開始したことが報告された.

    5. 「MAMR媒体開発」
      ○中川宏之, 橋本篤志, 工藤史人(昭和電工)

      高エネルギースパッタによって記録層の粒径を小さくした微細粒径媒体では,高磁場勾配のMAMRヘッドを組み合わせることで高いシグナルノイズ比(SNR)のゲインが期待できることが示された.FC-MAMRヘッドを用いた評価では,18 TBの現行HDDに比べて微細粒径媒体では面記録密度が約2%向上すること,また記録層の膜厚等の最適化によって粒間の磁気分離を確保することで更にSNRが改善することが示された.

    6. 「大容量HDD用ガラス基板」
      ○丸茂吉典,江田伸二(HOYA)

      HDD の大容量化に向けて多プラッタ化(基板枚数の増加)が望まれているが,多プラッタ化は基板の薄板化だけで達成できるものではなく,他の構成部品の薄板化や高精度化なども必要となることが説明された.そのような中で多プラッタ化と高温プロセスに対応可能なガラス基板の開発を行った結果,厚みが0.4 mmの基板の12 枚化を実現することが可能であることが示された.

文責:長谷川 崇(秋田大),菊池伸明(東北大),首藤浩文(物材機構)