第228回研究会

磁気計測を利用した非破壊検査技術とインフラ診断応用

日 時:
2020年10月26日(月)15:00 ~ 17:15

場 所:
オンライン開催
参加者:
14名

 インフラの老朽化対策が社会的な問題となる中,磁気計測を利用した非破壊検査技術がインフラの診断技術として注目されている.本研究会では,磁気を用いた検査技術の原理から実際の現場における活用事例まで幅広いトピックに関して,企業,大学から5名の研究者に研究会資料をご執筆いただき,うち3名にご講演いただいた.

  1. 「磁気センサを用いた鉄鋼構造物の非破壊診断法」
    ○塚田啓二(岡山大)

     磁気センサを用いた鉄鋼の腐食,き裂の検査原理とその活用についてご講演いただいた.腐食による鉄鋼の減肉の検査には超音波が用いられてきたが,検査対象と超音波プローブの隙間をなくすため,表面を磨く下処理が必要であり,手間がかかる,研磨の際に減肉がおこる,腐食が激しく凹凸が大きい場合には測定できないという問題があった.これらの問題を解決する手法として,極低周波渦電流探傷法(ELECT)が開発された.ELECTでは1 Hz~数 kHzの周波数を利用し,コイルからの磁界を鋼板に印加した際の渦電流が作る2次的な磁界をセンサで検出することで板厚を推定できる.周波数を掃引し,一番低い周波数の値を用いて補正を行う測定法により,表面のさび,塗装,凹凸によって生じるプローブと鋼板との隙間の影響を抑えることができ,下処理を必要としない簡便な測定が可能である.この手法は石油タンクの底の鋼材における地面側からの腐食,標識柱の地面に埋まっている部分の腐食などの検査に応用されていることが紹介された.また,き裂検査の方法として,不飽和交流磁束探傷法(USAC-MFL)が開発された.USAC-MFLでは交流の弱い磁界を印加し,き裂による磁界の漏洩と,き裂による渦電流の変化とが混ざった信号を検出する.弱い磁界で測定できるため大きな電源が必要なく,フィールド検査に向いている.この手法の電車用レールの溶接部の検査への応用が紹介された.

  2. 「吊橋などの構造用ケーブルに対する磁気的非破壊検査」
    ○塚田和彦(京大)

     磁気計測を利用した鋼鉄ケーブルの腐食,張力の評価についてご講演いただいた.ケーブルの腐食評価に用いる全磁束法では,現場においてケーブルに巻き線することでソレノイドコイルを作製し,ケーブルを長手方向に磁化させる.このとき,磁束量がケーブルの鋼材の断面積に比例することを利用し,腐食による断面積の損失を求める.全磁束法を用いた構造用ケーブルの評価には100件以上の実績がすでにある.プレストレスドコンクリートに使用される鋼線(ストランド)には,施工時に張力が導入される.この張力が設計通り導入されているかを確認し,また施工後も維持されているかを監視することが重要である.この目的のため,張力による磁気特性の変化を利用して張力を計測するスマートセルが開発された.スマートセルでは永久磁石を用いてストランドを磁化し,空間磁界をホール素子で測定する.このホール素子の出力は張力に対してほぼ線形に応答するため,張力の評価が可能である.さらに,スマートセルは動的な張力の変化も検出可能である.一例として,列車用の橋のストランドの張力が,列車の通過時に,個々の車両の通過に応じて変化する様子が紹介された.

  3. 「超音波による電気・磁気センシング」
    ○生嶋健司(農工大)

     物質に超音波を印加することで誘起される電磁応答を利用した電気的,磁気的な物性のイメージング手法(ASEM法)についてご講演いただいた.ASEM法では超音波のスポットサイズによって空間分解能が決まるという特徴があり,電磁波を用いた場合より高分解能の測定が可能である(例えば10 MHzにおいては,電波の波長は 30 mだが,水中での音波の波長は150 μmと5桁も小さい).超音波を用いた磁気イメージングでは,超音波が印加された際に圧磁性によって生じる磁化を検出する.さらに,外部から磁界を印加することで,超音波を用いて局所磁気ヒステリシス特性を測定することが可能である.これら手法を用いて,コンクリート内部の鉄筋の腐食を検知する応用について紹介された.

  4. ※以下は研究会資料のみ.
    ・パルス着磁を用いた鉄筋コンクリートの鉄筋位置とかぶり厚推定の基礎検討

    ○堀 充孝(日本電磁測器)

    ・磁気を用いた非破壊検査の有効性の検証

    ○丸山一直(コニカミノルタ)

    文責:首藤浩文(東芝)