第211回研究会/第63回磁気工学専門研究会報告
医療と磁気の現状と将来展望
- 日 時:
- 2017年1月27日(金)13:30~16:45
- 場 所:
- 中央大学駿河台記念館
- 参加者:
- 39名
磁気工学は医療において診断や治療を中心に様々な形で応用されてきた。今後さらに新たな研究を展開していくにはいわゆる医工学連携が不可欠であり、それぞれの分野の連携や協力が必要である。本研究会では医療現場、企業、大学の分野から4人の講師をお招きし多角的な観点で磁気と医療に関する最新の研究動向と今後の展望をご講演いただいた。
- 「MEMSの現状、および磁気を中心としたマイクロ技術の医療応用」
○江刺正喜(東北大)
半導体微細加工を発展させてセンサなどの多様な要素を集積したMEMSは、システムの重要な要素として使われている。講演では、MEMSをLSI上に形成する各種ヘテロ集積化技術が紹介され、これらの技術を用いて作られた加速度センサ、三軸振動ジャイロ、電子コンパス、シリコンマイクロフォン、圧力センサ、プリンタヘッド、触覚センサネットワーク、超並列電子線描画装置などが紹介された。次に、磁気を中心としたマイクロ技術の医療応用の説明がなされた。最後に、企業などが大学に人材を派遣して、試作を行う「試作コインランドリ」が紹介された。
- 「医療現場から鉄を中心に癌および磁気的治療を考える」
○大原利章(岡山大)
鉄に着目した新しい癌治療に関する講演であった。細胞の増殖に鉄は欠かせないものであるが、癌細胞は急速な増殖を行うため、より多くの鉄を必要とする。鉄をコントロールすることで癌細胞の増殖が抑制の効果がみられるが、血管新生が起き、これが癌細胞の増殖へとつながる。そこで、除鉄した食事を与えたマウスに、血管新生阻害薬を投与することで癌の細胞増殖を抑制できることが示され、鉄をコントロールするという新しい癌治療の可能性が示された。次に、磁性ナノ粒子を用いた細胞レベルでのハイパーサーミアが紹介された。これは転移癌の新しい治療として期待されている。
- 「機能性磁性ビ-ズの医療・バイオテクノロジーへの応用」
○畠山 士(多摩川精機)
生体物質を分離・精製するアフィニティ精製の工程の自動化を目指して開発された高機能性磁性ビーズが紹介された。高機能性磁性ビーズは複数個のマグネタイトの周りをポリグリシジルメタクリレートで被覆したビーズであり、標的蛋白質をワンステップで高純度に分離・精製できる。加えて、スクリーニング自動化装置により、アフィニティ精製の工程が自動化される。次に、磁性ビーズにユーロピウム錯体を導入した、蛍光・磁性ビーズが紹介された。ミセル溶液中においても強い蛍光が得られることが示され、高感度なサンドイッチイムノアッセイや免疫染色への応用が期待される。
- 「磁性粒子を用いた医療診断技術」
○高村 司(豊橋技科大)
磁性粒子を用いたPoint-of-Care Testing(POCT)と呼ばれる医療診断技術が紹介された。磁性粒子の検出として磁気センサを用いた場合、センシングエリア上での非特異吸着した磁性粒子が検出エラーとして問題となる。本講演では、半導体加工技術を用いて作製したマイクロサイズのリング配線に電流を流すことで周辺に磁場勾配を発生させ、磁性粒子を高精度に操作する技術が説明された。次に、リング配線による磁気操作技術をさらに蛍光磁性粒子の検出プロトコルへ発展させた生体物質検出が紹介され、高感度なストレプトアビジンの検出結果が示された。
文責:Adarsh Sandhu(電通大)、野田紘憙(和歌山大)、吉田 敬(九大)