日本磁気学会 第202回研究会報告
「エネルギーに関連する磁性材料の現状とその展開」
- 日 時:
- 2015年5月26日(火) 10:40~16:20
- 場 所:
- 中央大学駿河台記念館
- 参加者:
- 28名
近年「パワーエレクトロニクス技術」の急速な進展により,磁性材料に所望される特性が変化してきている。本研究会では,エネルギーに関連する磁性材料の現状と今後の展開に関して,磁性材料の供給・評価・活用まで幅広い分野の研究者を講師として招き,講演頂いた。講演内容が多岐に渡ったことで,多面的な議論がなされ有益な研究会となった。各講演の概要は以下の通りである。
- 「今後の磁性材料とパワーエレクトロニクスに関して」
○藤﨑敬介(豊田工大)
パワーエレクトロニクスを活用した電力変換技術の進展により生じているエネルギー関連の磁性材料に対する新たな課題が紹介された。半導体の特性と鉄損特性の関係や高周波駆動による発熱の問題など,パワーエレクトロニクスと磁性材料の関係の現状が報告され,今後の磁性材料開発の方向性や克服すべき課題などが示された。
- 「電磁鋼板の高磁束密度・低損失化と今後の活用」
○開道 力(北九州高専)
モータやトランスで用いられる軟磁性材料に関して,パワーエレクトロニクス技術の進展との関係を交えた報告がなされた。モータで用いられる鉄心は,インバータ駆動による高速回転化とネオジム磁石の普及による高出力・小型化のため,高周波・高磁束密度励磁が求められていることが紹介され,最近の電磁鋼板の高磁束密度・低損失化動向と高性能化技術に関して報告がなされた。
- 「特性評価時の注意点ならびに評価結果の有効活用」
○成田芳正(岩通計測)
磁性材料の磁気特性評価方法や評価結果の活用方法に関して報告がなされた。最近の軟磁性材料は,低損失化や高周波駆動化により高い確度で磁気特性を評価することが難しい現状が示された。また,被測定対象に施した巻線径や電流検出抵抗の周波数特性などが軟磁気特性の評価において無視できない誤差要因となることが示され,実計測時の具体的注意点などを交えながら,軟磁性材料の磁気特性評価の基礎から応用まで幅広く紹介頂いた。
- 「SPORT HYBRID SH-AWD 新型モータの開発」
○矢﨑 学(本田技術研究所)
HEV(Hybrid Electric Vehicle)で用いられるモータならびに制御システムに関して報告がなされた。HEVで用いられるモータには,環境性能の優位性と共に,優れた動力性能や静粛性などの付加価値が求められてきている現状が紹介され,燃費向上と走破性の両立が期待される「前輪をエンジンとモータ,後輪をモータで駆動する電動AWD(All-Wheel Drive)システム技術」に関して紹介がなされた。
- 「日本におけるネオジム磁石の動的マテリアルフロー分析」
○醍醐市朗,関根伸雄,後藤芳一(東大)
ネオジム磁石に含まれるNdならびにDyの動的マテリアルフロー分析の結果に関して報告がなされた。マテリアルフロー分析は,対象物質が社会の中にストックされている量を推計する手法であり,自動車,エアコン,FA(Factory Automation)機器がNdやDyの回収源として大きなポテンシャルを持っていることが報告された。ただし,それらの多くは中古品として国外へ輸出されるため,NdやDyの二次資源活用が困難な現状であることも報告された。
- 「異方性ボンド磁石の現状と展望」
○山崎理央,御手洗 浩成,野口健児,三嶋千里,度會亜起,松岡 浩,新宅雅哉(愛知製鋼)
異方性Nd-Fe-B系ボンド磁石の従来の開発動向ならびに今後の開発指針に関して報告がなされた。磁石粉末の開発に関するこれまでの取り組みを報告頂き,Nd-Cu-Alの粒界拡散による高価なDyを用いない高保磁力化の実現や,対環境性皮膜による長期減磁の低減などが示された後,角型性の改善など異方性Nd-Fe-B系ボンド磁石の今後の開発指針に関しての報告がなされた。
文責:柳井武志(長崎大)