第189回研究会報告

「高効率モータ -磁性材料と最適磁気回路設計-」

日時:2013年2月4日(月) 13:00 ~ 17:30
場所:中央大学駿河台記念館
参加者:27名

 電力消費の大部分を占めるモータの高効率化は、世界規模での電力の有効利用に繋がる重要な課題である。本研究会では、モータの高効率化に必要なハードマグネットやヨークなどの構成部材についてのトピック紹介にとどまることなく、これらを用いた磁気回路の最適設計によるモータの高特性化やそのアプリケーションについて、最新の話題を5名の先生方からご紹介いただいた。いずれの講演においても活発な質疑応答があり、川上(材料)から川下(アプリケーション)の分野を統括した研究会の開催は、本分野の発展に大いに貢献しうるものと感じた。以下に講演の概略を紹介する。

講演内容:

  1. 「高張力電磁鋼板とその最適活用」
    ○屋鋪裕義、田中一郎、久保田 猛(新日鐵住金)

     高張力無方向性電磁鋼板の強化手法としてP、Mn、Niなどを固溶する方法と転位密度を最適制御する方法が紹介された。上記の手法を用いることで機械特性と磁気特性を高次元で両立させた電磁鋼板の製造が可能となり、小型・高速回転化が必要とされる高効率モータの鉄心材料としてすでに実用化されているとの報告があった。今回紹介された高張力無方向性電磁鋼板は、その優れた特性から磁気回路設計に適した材料となり、今後の地球温暖化やエネルギー問題の解決に大きく貢献するものと考えられる。

  2. 「高耐熱Dyフリー熱間加工磁石」
    ○日置敬子、服部 篤、入山恭彦 (大同特殊鋼)

    Nd-Fe-B系磁石は最強の磁力を有することから、小型・軽量化が必要とされる自動車用のモータに多く用いられ、近年では、さらなる高磁化、高保磁力化が要求されている。本講演では、一般の焼結プロセスに比べて、組織の微細化が可能な熱間加工プロセスについて紹介を頂いた。超急冷法により得られるナノ多結晶体の原料合金に対して、熱間加工時の塑性変形による配向と粒子の異方成長の適正化を行うことで、Dyを添加しないNd-Fe-B系磁石においても1600 kA/mの高い保磁力が得られ、これらについてTEM、MFM(磁気力顕微鏡)などのデータを用いて詳細な説明を頂いた。

  3. 「風力発電用永久磁石発電機の開発事例」
    木村 守(日立)

    風力発電は自然エネルギーを利用する発電システムにおいて近年最も大きな成長を見せており、その仕様に適した2 MWクラスの永久磁石式同期発電機(PMG)の開発について紹介頂いた。PMGではメンテナンスの負担が低減されること、また、高効率化も容易といったメリットを有している。このPMGに適した回転子としてクローバー構造を採用し、極間通風路を設けることで良好な冷却効果が得られること、さらに、極間の洩れ磁束を減らすことができるために磁石うず電流損失についても大幅に低減できることが報告された。

  4. ハイブリッド自動車用脱レアアースモータの研究開発『スイッチドリラクタンスモータ』
    千葉 明(東工大)

    レアアースの価格高騰による資源セキュリティーの懸念から、希土類磁石フリーの高性能モータの開発が強く望まれている。本講演では、小型軽量、高効率、大トルク、広い速度出力範囲といった多くの長所を有するハイブリッド車用の希土類永久磁石モータの代替として、永久磁石を使用しないスイッチドリラクタンスモータの開発経緯ならびに最近の動向を紹介頂いた。電磁界シミュレータを用いた最適化により固定子と回転子を多極化することで、従来のモータと比べて遜色ないトルクと効率が得られることが確認され、実際に試作した電気自動車においても良好な結果が得られたと報告があった。

  5. 「圧粉磁心を用いた省レアアースハイブリッド界磁モータ」
    小坂 卓(名工大)

    本講演では、圧粉磁心に三次元磁気回路構造を採り入れたハイブリッド界磁モータについて紹介頂いた。比較対象をSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)タイプのハイブリッド自動車に搭載される埋込磁石内蔵型同期モータとし、これと同等性能を有するハイブリッド界磁モータを電磁界シミュレーションにより設計した後、フルサイズでの試作と性能試験を実施した結果、磁石使用量を半減しながらも対象モータと同程度の出力密度と効率が得られた。今後、コイル線材の変更やヨークの薄型化により更なる高特性化が期待できるものと報告があった。

文責:服部 毅(豊田中研)、伊東正浩(阪大)、斉藤貴伸(中部科技センター)