第163回研究会報告

「ハード・ソフト磁性材料における高性能化とナノ組織制御技術」

日時:2008年12月4日(木) 13:00~18:00
場所:中央大学駿河台記念館
参加者:46名

 ハード磁性材料は、自動車、家電、ITなど広い分野で利用されているが、近年の性能向上にともない、新しい分野や市場が開拓されてきている。一方、ソフト磁性材料でも、圧粉磁心が自動車で利用され、金属ガラスやナノ粒子なども注目されてきた。しかしながら、ハード・ソフト磁性材料とも更なる高性能化が要求されている。これを可能とする技術にナノ組織制御がある。本研究会ではハード・ソフト磁性材料における最新ナノ組織制御技術を紹介するとともに、目指す特性や応用例などを詳述した。以下に発表された内容の概略を示す。

講演内容:

  1. 「Nd-Fe-B系磁石の材料課題と可能性」
    ○広沢 哲、深川智機、西内武司(日立金属)

     重希土類元素を削減した高保磁力材料の開発のために、保磁力発現機構研究の必要性が述べられた。また、著者らの界面モデル実験結果、HDDR磁石における粒界Nd-rich相の存在、結晶粒微細化による反磁界係数低下の可能性、などが報告された。
     

  2. 「Nd-Fe-B基永久磁石材料の微細組織と保磁力」
    ○宝野和博、大久保忠勝、W. F. Li(物材機構)

     著者らが行っている高分解能SEM、高分解能TEM、3次元アトムプローブによるNd-Fe-B系磁石の微細構造解析結果が紹介され、特に焼結磁石とHDDR粉末の微細構造の違い、Cu添加効果、粉末微細化に伴う酸化相の影響、などが報告された。
     

  3. 「薄膜化技術によるNd-Fe-B系磁石の高保磁力化と保磁力機構」
    ○嶋 敏之、加藤 元、岩佐拓郎、石岡 創、岡なつみ(東北学院大)、佐藤 岳(豊田中研)

     スパッタ法を用いたNd-Fe-B系薄膜の作製において、良好な磁気特性は化学量論組成よりもNd量およびB量が高い組成領域で得られること、膜面垂直方向で20 kOeの保磁力が得られること、Nd/Tb/Dyキャップ層を成膜することにより、さらに高い保磁力が得られること、などが紹介された。
     

  4. 「高性能圧粉磁心における組織制御技術」
    ○宮原正久(三菱マテリアルPMG)、五十嵐和則(三菱マテリアル)

     圧粉磁心の低鉄損化を目的に開発された高耐熱性MgO系絶縁被膜の形成過程と構造について報告がなされた。また、強度改善のためのシリコーンレジンを用いたスチーム処理など、高性能化への要素技術が紹介されるとともに、改良された圧粉磁心の磁気特性について報告がなされた。
     

  5. 「構造の不均質性を利用した塑性変形するFe基バルク金属ガラス及び1.9 TのBsを持つFe基ナノ結晶合金の開発」
    ○牧野彰宏(東北大)

     ガラス/ヘテロアモルファス/ナノ結晶構造を利用した高機能Fe基合金について報告がなされた。特にPとCuの複合添加による高Fe濃度合金のヘテロアモルファス化現象から、1.9 Tを超える磁化を有する超高Bs-FeSiBPCuナノ結晶合金が開発できたこと、などが紹介された。
     

  6. 「高周波デバイス対応磁性ナノ粒子集合体の形成と動的磁気特性」
    ○小川智之、高橋 研(東北大)

     GHz帯域の高周波デバイスに対応した超常磁性鉄ナノ粒子材料の動的磁気特性について理論的・実験的検討を行った結果、粒径3 nmにおいて、バルクの強磁性共鳴を超える超常磁性に特有な磁気共鳴現象の発現を見出したこと、などが紹介された。
     

(文責:杉本 諭(東北大))