第143回研究会報告
「モータの高性能化技術と開発事例」
日時:2005年8月25日(木)10:25 – 17:10
場所:化学会館7階ホール
参加者:54名
講演内容:
- 「鉄芯材料とそのモデリング技術」
藤原 耕二(岡山大)
モータの鉄芯材料に関して、磁界解析用のモデリングを意識した磁気特性測定の観点から、電磁鋼板および圧粉磁芯の最近の検討事例が紹介された。まず、電磁鋼板のモデリング技術として二次元磁気特性を考慮した磁界解析法が示され、その応用例として、二方向性電磁鋼板をモータに適用した場合の損失低減効果、および積層鉄芯の層間ギャップを均質化法により考慮する方法が示された。また、圧粉鉄芯について、高周波励磁時の磁気特性の実測値が示されるとともに、使用される最大磁束密度,周波数をパラメータとして鉄損の観点から電磁鋼板との優劣比較が示された。
- 「永久磁石材料とそのモデリング技術」
宮田 浩二(信越化学)
永久磁石材料の最近の動向と永久磁石モータのシミュレーション法が紹介された。希土類磁石について高残留密度化と高保磁力化のための合金の新たな製造方法など高性能化技術が示され、用途に応じた各種高性能磁石の磁気特性も紹介された。さらに、永久磁石モータのコギングトルクを磁場解析で求める際の形状や配向のモデリング精度が解析結果に及ぼす影響が示され、コギングトルクを低減する段スキューの効果の三次元解析例も示された。また、永久磁石の熱減磁に関して、永久磁石の交流磁気損失のモデリング方法と磁石の分割方法による損失の低減効果の解析例が示された。
- 「有限要素法を用いたモータの解析技術」
山崎 克巳(千葉工大)
有限要素法を用いた回転機の電磁界解析に関する最新技術が紹介された。まず、駆動回路としてインバータを用いた場合のキャリア高調波を考慮した鉄損の算定方法が示され、IPMモータにおいてキャリア高調波が各部の鉄損に及ぼす影響の解析結果と実測値と比較することによりその妥当性が示された。次に、積層鉄心の鋼板中の渦電流を考慮する場合のモデリング方法や異常渦電流損の近次的考慮法が示され、IPMモータの損失解析や誘導電動機の横流解析への適用例が示された。また、高速高精度自動有限要素作成技術として、逐次アダプティブ有限要素法が示された。
- 「磁気回路法を用いたモータの解析技術」
一ノ倉 理(東北大)
インバータなどの電子回路で駆動されるモータの詳細な動特性を解析する方法として、モデルの作成が簡便、計算時間が短い、少ない分割数で高い計算精度が得られることを特長とする磁気回路法を用いた方法が紹介された。この磁気回路法では、汎用の回路シミュレータ“SPICE”が使用されており、モータの回転子の運動は、回転子位置角によって変化する電圧源あるいは可変磁気抵抗でモデル化され、非線形磁気特性の考慮も容易である。また、駆動回路も考慮して動特性解析を行う方法も示され、スイッチトリラクタンスモータや埋め込み磁石型ブラシレスDCモータに適用した場合の詳細な動特性の解析結果が報告され、実測によりその妥当性が示された。
- 「応力の影響を考慮したモータの特性解析」
大穀 晃裕(三菱電機)
モータの高精度設計を行うため、鉄心材料の応力に起因する磁気特性の劣化を考慮した解析システムが紹介された。本システムは、印加応力に対応する磁気特性の変化を素材ベースで測定し、これと構造解析によって得られた応力分布を磁界解析と連携させる。適用例として永久磁石同期モータの鉄心のフレームの焼きばめがコギングトルクに及ぼす影響の解析結果が示され、応力を考慮した解析の必要性、および応力値として圧縮・引張応力とその向きが考慮できる主応力を用いることにより実測と一致する結果が得られることが示された。
- 「電磁場・構造・音響解析を連成したモータの騒音解析」
塩幡 宏規(茨城大)
モータの電磁力によって生じる騒音の解析システムが紹介された。本システムでは、まず二次元電磁界解析によって求めた電磁応力を時間と空間でフーリエ解析して可聴領域となる高調波成分を求める。次にこれを三次元構造加振力に変換し、三次元構造振動解析により電磁振動を求める。さらにこれを用いて三次元音響解析を行うことにより電磁音を求めている。本システムを用いて誘導モータの電磁振動騒音の解析例が示され、実測値と一致した結果が得られることが示された。また、電磁力の空間モードと構造振動の固有モードとの共振割合を定量化することにより、発生する騒音の電磁力空間モードの特定が可能であることが示された。
- 「産業用高性能サーボモータ」
大戸 基道(安川電機)
液晶・半導体製造装置・工作機械・ロボットなどに用いられるサーボモータの高性能化技術が紹介された。サーボモータの動向が紹介された後、永久磁石同期型モータを例として小形化、高出力化のための電気装荷および磁気装荷の向上技術が示された。次にモータの実稼動時のドライブ回路の各部の電流や電圧、トルク、損失、リプルなどの諸特性を把握するための駆動回路も含めたモータの解析技術が示された。さらにインバータ駆動時の損失低減方法としてPWMのマルチレベル化、エンコーダの小型化として2極着磁した永久磁石を用いる磁気式小形エンコーダが紹介された。
- 「高速・高加速を達成した電気自動車用の駆動用モータ」
清水 浩(慶応大)
Eliica(エリーカ)と名付けられた電気自動車の開発事例について紹介された。この電気自動車は、5人乗りセダンであるが最高速度として370km/h、加速性能として0-160km/hまでの加速時間7.0秒を記録している。この車は、基本的な要素技術としてリチウムイオン電池、永久磁石式モータ、IGBTを用いたインバータを、車体構成技術としてインホイールモータ、コンポーネントビルトイン式フレーム、タンデムホイールサスペンションと名付けられた新しい技術を用いており、これらの技術がそのコンセプトや開発過程も含めて示された。
本研究会では、高性能モータの開発という観点から、磁性材料、解析技術の最近の動向、また、実際の高性能サーボモータや電気自動車の開発事例について、貴重な最新の成果をわかりやすくご紹介頂きました。どのご講演もこの分野の目覚しい発展が実感できる内容でした。また質疑応答も活発に行われ、この分野に対する関心の高さを示したものと思われます。
最後に、お忙しい中、快く講演して頂いた講師の皆様に、紙面を借りて深く感謝いたします。