第136回研究会報告
「高温超伝導体薄膜材料の15年史」
日 時:2004年5月19日
場 所:機械振興会館第2研修室
参加者:36名
- 「銅酸化物超伝導体薄膜成長の技術開発史」
塚田一郎(電力中研)
1986年の高温超伝導体発見を境に酸化物の薄膜成長技術は格段の進歩を遂げてきた。講演では従来の薄膜成長技術の何を基礎とし酸化物としてどのような独自の発展を遂げてきたかについて歴史を辿りながらの解説がなされた。
- 「薄膜成長により銅酸化物の微視的構造制御と高Tc化」
内藤方夫(農工大)
まず銅酸化物に対する高Tcの経験則を述べ、それに基づいて薄膜合成を用いた高Tc化へ向けた微視的構造制御の具体例がいくつか紹介された。特に、バルクでは作製が困難な平面4配位物質が高Tcのポテンシャルを持つという観点から、T構造や無限層構造の銅酸化物の薄膜(低温)合成についての紹介があった。
- 「超伝導材料以外への展開:磁性材料・誘電材料・光学材料」
佐伯洋昌(阪大)
高温超伝導材料の薄膜化技術の1つとしてレーザMBE法が開発された。これを利用した人工格子技術による、超伝導近接効果やサイト選択的元素置換によるTc制御、また界面に格子歪みによる誘電特性制御や、高温クラスターグラス、低次元スピンといった様々な物性制御、新物質の創製が紹介された。
- 「薄膜線材:Y系超電導線材プロセス開発」
和泉輝郎(SRL-ISTEC)
次世代線材と呼ばれるY系超伝導線材は、結晶異方性のない金属テープ基材上にY系超伝導体を2軸配向させて成長することが必要である。講演ではそのような目的のために開発されたIBAD法を用いた構造制御の詳細について解説がなされ、さらにコスト面を考慮したMOD法の現況についても紹介がなされた。
- 「移動体通信基地局用薄膜フィルター:高周波との相性」
小原春彦(産総研)
高温超伝導薄膜を利用したマイクロ波デバイスに関する研究開発の最近の状況についての報告がなされた。基本的な超伝導の電磁応答の理論などを用いて、高温超伝導薄膜に求められる特性について議論し、送信用デバイスなど将来の応用の可能性について検討した結果が議論された。
- 「磁束量子の極短光パルス制御」
村上博成(阪大)
バイアス電流を印加した高温超伝導体薄膜試料に極短光パルスを照射すると、超高速非平衡超伝導状態を介して磁束量子が導入される。その磁束量子状態は光パルスおよび電流によって制御可能であり、その生成・制御法、さらに応用の可能性について詳細な紹介がなされた。
高温超伝導の存在が世間に広く知れ渡ることになった1986年の翌年には早くもこの材料の薄膜が作製された。近年一気に高度化した酸化物薄膜成長技術は、ふりかえってみるとやはり銅酸化物高温超伝導体薄膜成長の研究に負う所が大きい。一般に酸化物薄膜結晶成長における個々の技術的難点は、銅酸化物超伝導体を成長することでいちどきに顕在化したことがわかる。従ってこの材料を上手く扱えるようになれば自動的に他の酸化物成長もできるようになる、という図式は間違いない。そのことがはっきりと認識できる研究会であった。また当初の期待と異なり実用化への道のりは平坦ではなく短くもなかったが、携帯電話の基地局フィルターへの応用などはかなり実用に近い段階まできており、線材に関しても着実な進歩を遂げていることが伺いしれた。この15年の作製技術の劇的進歩を基にして、次はどのような進展を見せるだろうかという頼もしい期待を抱かせる研究会であった。