第135回研究会報告
「垂直磁気記録の最近の技術動向と将来展開」
日 時:2004年3月12日(金)9:45 – 17:00
場 所:機械振興会館研修室1
参加者:106名
- 「次世代垂直磁気記録への展望」
村岡裕明(東北大)
垂直磁気記録による高密度記録の可能性が議論された.エラーレートを確保する上で必要な転移ジッタと磁化転移幅の改善のためには、媒体粒径を低減する必要があり、そのためには減磁界と飽和磁化が重要な因子であることが指摘された.さらに、今後の超高密度磁気記録を考える上で交換結合媒体が重要な選択肢であることが述べられた.
- 「CoPtCr-SiO2垂直磁気記録媒体の開発と課題」
竹野入俊司、酒井泰志、榎本一雄、渡辺貞幸、上住洋之(富士電機)
Ruを下地層とするCoPtCr-SiO2媒体について、SNRを低下させることなくRuを5nmまで薄膜化可能であることが紹介された.さらに、磁性層のc軸配向分散低減により磁気クラスタサイズの低減と同時に熱安定性が向上することが確認された.
- 「CoPtCr-SiO2垂直磁気記録媒体のノイズ解析」
杉本利夫,下田一正,稲村良作,大島武典,渦巻拓也,田中厚志 (富士通研)
CoPtCr-SiO2垂直磁気記録媒体の媒体ノイズと磁気特性、構造の関係を実験的な観点から検討がなされた.粒間磁気相互作用の低減、磁気クラスターサイズの微小化、磁気異方性の分散の抑制が重要であり、これらの改善により電磁変換特性の向上が可能であることが述べられた.
- 「垂直磁気記録ディスクリートトラックメディア」
服部一博、伊藤邦恭、海津明政、森谷 誠、高井 充、添野佳一、松崎幹男(TDK)
隣接トラック間の磁気的干渉を低減するためのディスクリートトラックに関し、本講演は、この形状をナノインプリント方式により作成し、大量生産の可能性を検討した. また、作成されたディスクリートトラックをSiO2で平坦化し、ヘッド浮上安定性を確保している. さらに、トラックプロファイルを連続媒体とディスクリートトラックで比較し、隣接トラックの信号分離においてディスクリートトラックの方が優れていることを実証した.
- 「垂直磁気記録用ヘッドの現状と課題」
中本一広(日立)
垂直磁気記録用ヘッドにおける特有の課題と、その解決法の紹介があった.単磁極ヘッドの残留磁化がデータを消去する可能性があり、その対策として反強磁性結合多層膜が有効である.スキュー書込みの問題に対して逆台形の主磁極が有効であり、その形状を得るためのプロセスが紹介された.また、第2世代の垂直記録で必要となるサイドシールド型再生ヘッドのプロセスが紹介された.
- 「垂直磁気記録のための信号処理と最近の動向性」
岡本好弘、大沢 寿(愛媛大)
垂直磁気記録に最適な信号処理方式について紹介があった. ジッタ性媒体雑音や低域遮断歪などの影響とその対策について検討結果が述べられた. そして、キャンセラや信号依存雑音推定器を導入したPRML方式の紹介があった. さらに、PRML方式を超える可能性のある繰り返し複合化信号処理方式の説明とその評価結果について紹介があった.
- 「垂直磁気記録方式を利用した磁気ディスク装置の特長と大容量化に対するポテンシャル」
高野公史(日立)
単磁極型ヘッドと二層膜媒体との組合せで実現される垂直磁気記録方式において、高密度記録性能と信頼性とをスピンスタンド評価、ならびにドライブ試作を通して検証し、その結果について報告があった.
- 「磁気ストレージ技術・産業をめぐる動向」
今井拓司(日経エレクトロニクス)
磁気ストレージ産業をめぐる状況は目まぐるしく変化しており、HDDにさらなる大容量化が求められる一方で、面記録密度の伸びは急激に鈍化している.この状況の中で、今後のHDDの技術開発がすすむ方向性を考察し、その提言が紹介された.
垂直磁気記録の実用化を目前に、会場がほぼ満席となる多数の聴講者の参加が得られた. 各講演者は、要素技術の問題点を明らかにし、その解決の方向を示し、実用化への着実な進歩が感じられた.